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逆のパターンもいいかなって思って


 魔法世界クリスルファー。この世界は、とても平和で、穏やかな世界だった。魔王がくるまでは。ある日、魔界から魔王ショーミと名乗る変な女性が現れ、前触れもなくいきなり侵略活動を始めた。ショーミを倒すためにクリスルファーの戦士たちも全力で戦ったが、強い魔力を持つショーミに敵わなかった。


 そんなある日、一人の少女が現れた。その少女はアルスと名乗り、長きにわたる修行によって、勇者の力に覚醒したと言った。誰もがその言葉を信じなかったが、アルスの力は本物だった。戦士たちが苦戦した化け物を、たった一人で殲滅していった。人々は、彼女に期待した。彼女なら、魔王を倒せるかもしれぬと。


 そして、アルスは魔王がいるという山があると知り、一人でその山に向かった。山頂に着き、アルスは目の前にいる女性にこう言った。


「貴様が魔王ショーミか?」


 その女性は笑いながら、アルスの方に振り向いた。


「そうだ。なら、どうする?」


「貴様を斬る。いでよ、我が愛剣、セイントシャイン!」


 アルスの右手に、光が生まれ、そこから剣が現れた。セイントシャインを掴み、アルスはショーミに斬りかかった。


「今日が貴様の最期だ、魔王ショーミ‼」


「それはどうかな、美しい小娘よ」


 怪しそうに微笑みながらショーミはそう言うと、目の前に黒い渦を発生させた。


「なっ⁉」


「これは転移魔法だ、この中に飲み込まれたら……貴様はどこかへ飛ばされるだろう。ただし、この世界ではなく、別の世界に飛ばされる」


 飛びかかったアルスは急いで後ろに下がろうとしたが、勢いを付けすぎたせいで態勢を戻すことができず、黒い渦の中に飲まれてしまった。


「あ……うわァァァァァァァァァァ‼」


 黒い渦はアルスを飲み込んだ後、消滅した。


「クックック……これで……終わった」


 魔王の高笑いが、山頂に響き渡った。




 日本。とある住宅街。


「あー、ここで終わりか」


 読んでいた本をしまい、彼はベッドの上に横たわった。

 彼の名前は崎原(さきはら)弓彦(ゆみひこ)。何も力もない、平凡な男子高校生である。弓彦はベッドから立ち上がり、テレビのスイッチを入れた。テレビでは、何年か前に放映されていた刑事ドラマの再放送が流れていた。


「やっぱりつまんね」


 またテレビのスイッチを切り、ベッドの上で横たわった。


「あーあ、いきなりファンタジー小説のような展開になったら面白いんだけどなー」


 彼がそう呟いた瞬間だった。いきなり天井に魔法陣が発生し、大きな音が響き渡った。


「弓彦、これ一体何⁉」


「お前、何かしたのか?」


「ちょっとー、今友達と電話してるんだから、静かにしてくれるー?」


 騒動を聞きつけた家族が、一斉に弓彦の部屋に入ってきた。天井に現れた魔法陣を見て、家族たちは驚きの声を上げつつ、弓彦が変なことを市のだろうと思うような目になった。自分の仕業だと思われていると察した弓彦は、慌てて叫んだ。


「いや、俺だって分からねーよ、いきなり天井にあんなのが出てきたんだよ!」


「そうか。あーちょっと待ってろ、今汚れ落とし持ってくるから」


「あんなので消えるわけないでしょ」


「とにかく、早く消してよ」


 家族が騒ぐ中、音はさらにでかくなった。


「ちょっと、これじゃあ近所迷惑よ。早く消しなさい」


「どうすればいいんだよ! どーすりゃーいいか分かんねーって!」


 その時、魔法陣の中から少女の声が聞こえた。魔法陣の中央部分から黒い渦が生まれ、そこから少女の姿が見えた。


「嘘だろ……嘘だろ!」


 少女はそのまま弓彦のベッドの上に落下した。その直後、天井の魔法陣と黒い渦は消えた。弓彦はベッドの上で、気を失ってる少女に近付き、声をかけた。


「あ……あの……大丈夫ですか?」


 声をかけた瞬間、少女は飛び起きた。


「なっ……ここは……」


 少女は周囲を見渡し、近くにいた弓彦の襟元を掴み、こう聞いた。


「貴様、魔王の手下か?」


「へ? 何それ?」


「何? 魔王を知らぬのか?」


「え……えっと……知らない」


「そうか。分かった」


 弓彦を離し、少女は外に出ようとしたが、外を見て驚いた。


「何だここは? クリスルファーではない」


「えーっと……それより、あなたは誰ですか?」


 弓彦がこう聞くと、少女はこう答えた。


「私の名はアルス。アルス・ロトリーヌだ‼」




 その後、弓彦はアルスと共に下の階に降り、家族と話をした。


「まー可愛い子ね」


「可愛いっちゃあ可愛いけどさ……」


 弓彦は剣を手にし、周囲を見回しているアルスを見て戸惑っていた。


「こんな所、あいつに見せられないよ」


「あいつって誰?」


 突如、弓彦の目の前に黒髪の少女が現れた。


「うわっ! 世界かよ、いつの間に⁉」


「ついさっきよ。ウフフ」


 黒髪の少女、桂川(かつらがわ)世界(せかい)は弓彦の幼馴染である。美人でスタイルもよく、通う学校のアイドルみたいな存在である。なんだけど。


「この子誰? 弓彦君の部屋に現れたの?」


「あ……ああ……何でアルスのことを知ってるんだ……お前……まさか!」


 弓彦は急いで自室に向かった。そして、部屋のあらゆるところを調べ、声を上げた。


「お前、また人の部屋に盗聴器仕込みやがって‼」


「あら、愛する人の事を私は知りたいのよ。いろんなことを、全部ね」


 この会話で察する通り、世界はかなり危ない子なのである。そんな中、アルスが声を上げた。


「それより、何だここは? 変なのがたくさん置いてある」


 アルスは冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中に顔を突っ込んだが、すぐに顔を引っ込めた。


「冷たい‼ 何だこの箱は⁉」


「おいおい、冷蔵庫も知らないのかよ」


「れい……ぞう……こ? 私の世界にこんなもんなかったぞ」


 その時、弓彦の父がテレビの電源を入れた。テレビに驚いたアルスは、テレビに近付いた。


「また変な箱か……人が映っているだと、この薄い中に人がいるのか⁉ 取り出してもいいか⁉」


「あーやめてねアルスさん」


 弓彦父は慌てながら、アルスを抑えた。その時、弓彦姉がスマホで電話をしながら下に降りてきた。


「でさー、面白いことが起きたんだよね。異世界から女の子がさ、弟の部屋に落ちてきたんだよ。マジマジマジ。今度うちんちきた時に教えるよ」


 アルスは弓彦姉の持つスマホを見て、こう言った。


「何だ、スマホか。あれはクリスルファーにもあったな」


「え、そっちの世界にスマホってあるの⁉」


「ああ。何だ、もしかしてあいつが持ってるスマホも、地図とか天気とか見れるのか⁉」


「うん、まぁ……あとはいろいろなアプリがあるんだけど」


「アプリ? 何だそれは?」


「アプリはないんだ」


 その時、電話をしている弓彦姉は、スマホの画面を見て声を漏らした。


「あー、充電がない。充電器持ってこよっと」


「そっちは充電が必要なのか。私の世界ではそんなのは必要ないのに」


「すごいのかすごくないのか分からなくなってきた」


 弓彦は小さく呟いた。




 その後、弓彦はアルスと世界と一緒に、自室にいた。


「で、魔王が変な渦を出し、その渦に飲まれたらここにきたと」


「そうだ」


「私も見たわ、あなたが変な渦から出てくるところを」


 世界のセリフを聞いた瞬間、弓彦は部屋の天井を調べた。そこには、小型カメラが仕込まれていた。


「今度は隠しカメラかよ‼」


「お前も大変だなー」


 アルスはそう言いながら、部屋を見回した。すると、本棚にあるファンタジー小説を見つけた。


「何だこの本は? 小さいぞ」


「それは小説だよ」


「魔法の本ではないのか。何だ」


 アルスは本をしまい、再び周囲を見回し、弓彦にこう言った。


「そうだ。お前は何か魔法は使えるか?」


「魔法? そんなの使えないよ」


「この世界の人間は魔法が使えないのか?」


「それが当たり前なんだよ。君のいた世界とは違うんだから……」


「そうだよな……ん?」


 アルスは世界が持っていた小型カメラを見て、こう聞いた。


「何だ、そのちっこいのは?」


「これはカメラっていうのよ。これがあれば、写真を撮ったり動画を撮れたり、高性能なものだと隠し撮りもできるのよ」


「隠し撮りは犯罪だ」


 横目で弓彦は呟いた。その後、弓彦は世界を家に帰らせ、再びアルスと二人っきりで話すことにした。


「で、君は元いた世界に帰れるの?」


「無理だ。転移魔法は扱いが難しい。会得できるのはほんの一握りの魔法使いだけだ」


「君はその魔法を習ってないの?」


「ああ。私の魔法の師は教えてくれなかった。いや、会得してなかった」


「じゃあ、帰れないってわけか」


「そうだ」


 そう言うと、アルスは窓から出ようとした。


「え? 何しようとしてるの?」


「外に出るつもりだが。お前たちの邪魔はこれ以上したくないからな」


「いや、そこから外に出たら余計邪魔になるよ‼」


 二階から降りようとするアルスを見た下の人達が、騒ぎ始めた。


「ん? どうして下の連中は騒いでいるんだ?」


「普通の家の二階からコスプレイヤーが家から落ちようとしているんだよ‼ そりゃ騒ぐよ」


「この程度の高さから落ちても無事なんだが」


「他の人は無事じゃないの! いいから戻って」


 弓彦は何度かアルスを自室に引き戻し、話を始めた。


「分かった。俺が父さんたちと今後のことを話してみるよ」


「どういうことだ? まさかエッチなことを……」


「そんなことしないよ! しばらくアルスがここにいていいかってこと」


 この言葉を聞き、アルスは驚いた表情を見せた。


「本当にいいのか?」


「まだ分からないけど。とりあえず下に行こう」


 その後、弓彦はアルスがここにいていいか、親と話をした。


「アルスさんをここにいていいかって? いいんじゃない? ねぇ母さん」


「ええ。帰る方法がないし、分かるまでうちで世話しましょう」


「うちもさんせー」


 家族が皆、賛成してくれた。アルスは安堵した顔をしてこう言った。


「すまない……初めて会った人にこんな優しく……」


「困った時はお互い様よ」


「とりあえず、うちの友達に紹介してもいい?」


「姉ちゃん、それだけはやめて」


「あと、私以外の女を居候にするのは止めて」


 ここで帰ったはずの世界がこう言った。


「おまっ‼ 何でいるんだよ⁉」


「今、弓彦君の服に忍び込ませた盗聴器から話が聞こえたのよ。この女を居候にするとかそんな感じの……」


 世界が放つ殺意の波動的なオーラが、周りから発しられた。


「おい、ここで暴れるなよ‼」


「弓彦君は私の物……弓彦君は私の物……ユミヒコクンハワタシノモノユミヒコクンハワタシノモノユミヒコクンハワタシノモノキェェェェェェェェェェ‼」


 奇声を上げながら、世界はアルスに襲い掛かった。


「やばっ、世界のヤンデレモードが発動しちまった!」


「私と戦うのか。仕方ない。いでよ、セイントシャイン‼」


 アルスの右手が光り輝き、そこからセイントシャインが現れた。


「おいおい! 待てって二人とも!」


 アルスと世界の間に、弓彦が割って入った。


「ここで争うなよ! もう、おとなしくしろって……」


「弓彦君がそう言うのなら、仕方ないわね」


「無益な戦いなのか。分かった」


 弓彦が割って入ったおかげで、この場は収まった。様子を見ていた父親は、小さくぼやいた。


「大丈夫かなこれ?」




 夜。弓彦は風呂に入っていた。


「はぁ……今日は疲れた」


 湯船につかり、今日の騒動を思い出していた。まさか、居候が出来るとは思いもしなかった、それも、かなり美少女の。


「クラスの皆に話をしたら、ひと騒動になりそうだな」


「何がひと騒動だ?」


 アルスの声が聞こえた。まさかと思い、弓彦は入口を見た。そこには、全裸で、しかもバスタオルを付けずに仁王立ちしているアルスの姿があった。


「ぬわァァァァァ‼ 何やってんのアルス⁉」


「母上から、お前の背中を洗うように頼まれた」


「何頼んでんの母さん⁉」


「慌てるな。男子は女子が全裸で風呂に入ってくるのが好きと聞いた」


「いや嬉しいけど……何言わすの⁉」


「とにかくだ。私が背中を洗ってやろう」


「いやいいって」


「遠慮するな。さ、こっちへこい」


 アルスは湯船にいる弓彦を無理やり引っ張り、床の上に寝かせた。


「これなら背中どころか、尻も洗えるな」


「いやァァァァァァァァァァ‼ 見ないでェェェェェェェェェェ‼」


 風呂場から聞こえる弓彦の悲鳴を聞き、弓彦母はこう言った。


「あら、楽しくやれてるわね」


 それを聞いた弓彦姉も、こう言った。


「うんうん。新しい家族も増えたし、なんか楽しみだね」


「だけどね、俺にはもう一つ不安要素があるんだよ」


 弓彦父の言葉を聞き、母と姉は何のことだと聞こうとしたその瞬間、玄関の扉が開き、世界が入ってきた。


「夜番お邪魔します‼ 弓彦君はあのファッ○ンガッ○ムクソビッチと風呂に入ってるんですか⁉」


「ええそうよ」


「世界ちゃん、君段々言葉が汚くなってきてるよ」


「私も入ってきます‼」


 と、世界は全裸になり、風呂場に向かって行った。弓彦姉は世界を見て、父にこう言った。


「不安要素ってあれ?」


「うんそう」


 その後、混沌になった風呂場から、弓彦の悲痛な悲鳴が家中に響き渡った。


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