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幕間 星迷宮と祈 18

 その翌朝、桐雪たち四人が無事出発したと報告を受けた。国境門まではどんな曲を演奏してどのように踊るかを話していたらしい。しかし門を前にして一度、揃って頭を下げたという。それがなんの意味を持つのか、報告を聞いたときは全くどうでもいいと思っていたが、あれから十日。なんの報告も連絡もない。追手をかけてみれば全員返り討ちにあったと聞く。



「くっそ!! 逃亡か!? 亡命か!? それともあっちの兵に囲われたか!?」

「定孝、此度の処罰は貴様が受けろ」



 そうして定孝は三日ほど牢に入れられ、殿自らの罰を受けた。受け入れるしかなかった。蹴られ殴られ、治療はほんの少しの最低限。


 藤野見がいれば成功したかもしれない。自分ではない誰かが指揮を取っていたら今頃祭壇に淡桜城主の首が添えられていたかもしれない。そう思えば思うほど、自分の力不足を痛感した。同時にあのときの四人の真剣な表情が浮かぶ。しっかり答えていれば、信頼をもっと育てていれば。剣の天才と言われたあの少年ともっと話をしていれば。もしくはもっと強い力で抑え込めていれば……。何度考えても仕方ないこと。もう遅いことだ。近い未来は必ず自分が力をつけて、淡桜に復讐してやると誓った。今よりもっと殿の近くに立ち、計画の邪魔をしたものを一掃してやると決めた。


 それから十年と少し。

 兄は十年経っても外見が変わらない。それどころか精神的にも幼いままで、たびたび定孝の心にヒビを入れた。あのときの姿で、お前が選択を間違えたんだと言わんばかりに責める。さらに兄はなぜかネコの仮面をかぶる様になった。本当の名前を捨てたかのように、『ネコ』と名乗りだした。なぜネコなんだ? そう問いかけたかったが、そんな質問はできなかった。記憶の片隅が刺激される。赤い泥の中に浮かぶ誰かが、定孝を責めてくる。これ以上の失敗は許されないと、圧をかけてくる。

 兄とは同僚として接することでなんとかやっていけている。もう兄の考えていることはわからないし、分かりたくもないけれど、最期の止めは自分がさしたいと思う。最後の最後で、やってやりたいと思った。


 実際にその願いは叶った。主人が閉じ込めた木ノ実を、定孝が燃やした。燃えているそれを見つめて清々するかと思ったが、平然と駆け寄る他国の者を見て、それらが泣く姿を見て、胸が苦しくなった。取り返しのつかないことをしたと感じた。もう終わったはずの、捨てたはずの心が戻ってくるようだった。


 だけどもう、それも終わりだ。何もかもすべてが、自分の鈴蘭での人生が、今終わる。


 憎いと思っていたはずのあの男に、いつか仕返しをしたいと思っていた。大切な姫と別れさせて、薬とも毒とも取れるそれを飲ませようとしてまた失敗した。イライラして殴って気絶させてきたけれどまたここで復活してきた。そしてそいつとその仲間たちに揺さぶられて、兄の顔と名を思い出した。二人で笑いあえていた頃の、柔らかな表情だ。



 後悔しないように、間違えないようにと生きてきたけれど、やっぱりどこかで間違ったのだろう。思い返してもわからないけれど。そんな気がする。



(……あぁ、願わくばどうか──)



 一度でも笑顔をと望んだ人に、望んでくれた人に、幸福が降ればいい……。


 もういない兄に向けて、定孝は静かにそう祈った。


 

これにて幕間は終わりとなります。

次は六章ですね。定孝たちが戦っている間と同じ時、鈴蘭城主の戦いをお届けします。都合上ちょっとリンクします。

まだ完成してないし見えてないので少々お待ちくださいませ!

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