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幕間 星迷宮と祈 16

お待たせ致しました!


 秀孝が向かったのはエレナと別れた淡桜との国境付近。海側ではなく内陸だ。大陸をクマの顔に見て鼻と口元のあたり。海に出るなら淡桜か水仙に渡ったほうが行きやすい。北の大陸に帰るなら逆方面だが、クマの目元耳元付近の国と関わりがないため情報が入ってこない。旅人経由で入る情報も古いもので、何年か前に流行り病が猛威をふるったと言う話があった。本当なら近寄るはずがない。もっともエレナも秀孝も年老いたものから聞いただけの噂話ではあるが。

 居たらいいなと思っただけで、直感でもなんでもない。予想も想像もつけられないから、当てずっぽうで探しているだけ。心の奥底では見つからなければいいと思っているかもしれない。だけど見つけた。壁に背を向けて、じっとしている。座り込んでいるのは疲れているのか、この先自分に起こることを予見しているのか。秀孝が近づいても微動だにしなかったエレナは、そこで自害していた。



「……エレナ……」



 魔法でやりあうのか、口喧嘩するのかと色々考えたけれど、全てが無意味だった。エレナの膝の上には急いで書いただろう置き手紙。



『やることは終えたから、さよなら』



 戦うのだとしても言葉を交わせると思っていたけれど、そんな甘い考えはこの先も捨てなければいけないと感じた。この手紙、誰宛なのだろうか。表はもちろん裏にも宛名はない。けれど捨てたくなくてしっかりと懐に仕舞った。そうしてエレナの死体をそっと抱き上げて城へ連れて帰った。

 途中で部下たちが変わりに運ぶと言ってきたが、全て断った。建前は丁重に運びたいだったが、本音としては誰にも触らせたくなかった。丁寧に埋葬して、ゆっくりしてほしいという願いは届かない。だからせめて、自分の手で運びたかった。


 祭壇に行く前に、殿様と面会する。たしかに本人だと確認をするのかと思ったが、殿様はエレナを一目見るなり激昂した。近くにいた秀孝の部下を殴り飛ばし、怒鳴り散らした。



「このっ!! この役立たずの小娘めぇっ!! なんのためにっ! なんのために探し出したと!!」



 一歩下がったところで苦い顔をしているのが定孝だった。ときおり頭に手を当てているので、頭痛か寝不足なのかもしれないと思えた。

 このあとエレナは無残にも頭と体を切り離される。頭は祭壇へ送られるだろうが、体はどうだろう。可能ならは埋葬するより海へ流してあげたい。そう、秀孝は考えていたけれど。



「……吊るせ……」

「は?」

「この無意味な小娘の死体を城壁に吊るせ」

「!! 殿様! それはっ!」

「定孝!! 何度も言わせるな!!」

「……どのくらい吊るしますか?」

「待って! どうしてそんなむごいこと……」

「三日三晩吊るしたあと燃やせ。こんなしょうもない小娘を祭壇へは捧げられん!」

「殿様待って!! 定孝、やめて!!」

「逆らうならお前は地下牢に居ろ。定孝これは命令だ」

「かしこまりました、殿」



 理由を知ることなく、エレナは殿の部下に引きずられて何処かへ連れて行かれた。そのうち城下町から最も見やすい城壁に、エレナの遺体が吊るされるだろう。綺麗なエレナは見るも無残な姿となり、三日後に燃やされてしまう。秀孝は最後の抵抗として定孝にぶつかる。



「定孝、どうして……エレナは、茨姉妹はボクたちの恩人で……」

「……兄さんにとっては今も恩人なんだね。でも僕……俺にとっては、殿の命令を遂行するための道具だ」

「な……」

「茨の姉のマーラを殺したときの感覚が未だに腕に残ってる。魔法を使ったのに、だ。あのときのレナの顔が忘れられない。多分俺がレナを燃やしたら、乗り越えられるんだ……」



 だからやる。そう言って自分の部下を見張りとして兄を地下牢に送った。秀孝が地下牢にいる間にエレナは吊るされ、そして骨も残らずに燃やし尽くされた。

 七窪ななくぼ炎環えんかんか。はたまたエレナの転生が許されないよう魂まで燃やされる禁術の紅乙女べにおとめか。どのみちもう二度と会えない。見届けることも出来なかった。


 それからまた兄弟は会うことなく、任務の報告だけを聞き、己を磨きつつ鈴蘭のために働いた。定孝はすっかり殿のお気に入りの側近にのぼりつめ、地位を確保していった。

 なぜ殿はあんなに激昂したのか。なぜ定孝は頑なに命令を聞こうとしたのか。なぜエレナは祭壇ではなく吊るされたのか。いくつか謎が残っているが、秀孝には分かるはずもなかった。秀孝は茨姉妹を恩人といったから。だけど定孝は違う。上司の右腕となるべく道具だと割り切ったからみえた。今までみえなかった魔力の流れがみえるようになっていた。エレナには、魔力がかけらも残っていなかったのだ。


 

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