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幕間 星迷宮と祈 13

来てくださりありがとうございます!


 そしてついに二日後の薬室。定孝は城主と闇に隠れて見守ることになった。その場に参加しろと言われたのでてっきり姿を表すかと思ったが、隠れろと告げられた。藤野見の執務室で部屋の主は椅子に腰掛けて、相手を待つ。約束の時刻に、その相手は現れた。



「ご苦労さまです。定孝のお兄さん?」

「嫌味のつもりですか? この三年、定孝は僕を見ても兄と呼ばなくなりました。契約を破ってなにかしたんですよね!?」



 秀孝は自身の武器である刀を持っている。いつでもそれを抜くと言わんばかりに利き手をかけている。



「役に立たない者には罰を与えるのは当然ではないですか?」

「……僕が、役に立たないと?」



 藤野見と秀孝は互いに相手だけを見据える。藤野見はバレてないと思っているのだろうか。一対一なら、秀孝は相手の心が読める。そしてそれを誰にも告げてはいない。



「まぁなにかしたと思いたいなら思っててもいいですが、ここへ来た理由はわかっていますよね?」



 そう言って藤野見は赤い液体を差し出してきた。前回のは緑色。今回は赤だ。量は前回と同じくらい。瓶を振ってもユラユラ揺れるだけのそれはトロリとしていそうな印象だった。



「前回、緑の液体を飲んだとき、僕が何を言ったか覚えてますか?」

「さぁ、なんでしたっけ?」

「定孝に手を出すなと言ったんです!? あなたはそれを承諾したはずだ! あなたの名にかけて進言するといったはずです!!」

「ふぅん。で、それを飲むんですか?」

「……っ!」



 一瞬、秀孝は躊躇した。その躊躇は、してはいけないものだった。



「出るぞ」

「うわっ!」

「誰っ!?」



 三者が三様に違う反応をする。定孝は城主に襟首を捕まれ土下座しているように倒れ込む。城主は定孝の首を掴んで藤野見の隣に立つ。そしていきなり現れた二人を見て秀孝は刀を抜きかけた。



「……定孝?」

「……飲むんですか? 飲まないんですか?」



 ただ静かに赤い液体を差し出してくる藤野見に嫌悪感しかない。しかし弱点の弟が向こう側にいる時点で、秀孝にできることは一つ。



「……飲む」



 自分でそれを奪い取って一気にあおる。酒を飲んだかのように体が熱くなった前回と違って、今回は体の内部から針で刺されるような痛みが秀孝を襲う。



「うあっ! うがあぁぁあ!!」

「!!」



 声を出せば喉にも刺さっているような痛みが出る。それでも何かをどうにかしたくて声を上げてしまう。



「うぅ……あぅ……」

「……逃げずに弟のそばで、今以上に任務に励むといい。お前にできるのはそれだけだ」

「お戻りですか? 閣下」

「意識を取り戻したら連絡しろ」

「承知致しました」

「お前ももう戻るといい、定孝」

「え…………はい」



 城主が闇に溶けていなくなる。定孝は叫び声を上げて気絶した自分の兄をじっと見つめる。体を折りたたんで小さく丸まっている姿を見て、いつも自分に声をかけてくるヤツを思い出した。



「……ネコ?」

「定孝、どうかしたのか? お前も戻るといい」



 素直に言うことを聞かない兄弟にイラついているのか、藤野見の口調がだんだん荒くなっている。戻りたい……でもできたら兄を運び……。



「定孝!」

「はいっ! 失礼いたします!!」



 その場から逃げるように去った。すれ違いざまに青いマントの男を見たので、また兄を運んでくれるのだろうかと考えた。前回は確か、丁重に運べと言っていたはずだ。

 城主もいなく、藤野見もまだ薬室だ。散歩をしたら、あのネコに会えるだろうか……。今まででネコに会った場所を重点的に回る。薬室を出てすぐの植え込み。魔法の訓練場。体術の修業場を見渡せる櫓の下。そして新しい自室の近く。けれど今回に限って、ネコに会うことはなかった。それがなぜか、また不安になっていた。



(おかしいな……今までこんなに会わなかったことはない)



 あのネコがなにであれ、自分の話を聞いてくれた存在だ。ぐるぐる回りながら、また薬室へ戻ってきてしまった。



(……まずいな、これが職業病ってやつかな)



 そんな変なことを考えていたら、少し目が冴えた。自室に帰って夕食をとろうとしたとき、どこからか叫び声が聞こえた気がした。どこかと探す必要はない。ここには薬室へつながる道しかない。藤野見が不機嫌になっていたから、それ関連だと思っていた。定孝はなんの疑いもなく薬室に向かう。藤野見に聞きたいことがあると言えば、戻ったことを咎められるとは思わなかった。

 薬室の扉を開けて第一に、ムワッとした空気を感じた。



「……え?」



 暗がりでは何もわからないと思い、電灯のスイッチを入れる。研究員たちが夕食までの間に許された薬室の特権。だがそれもまた、後悔することになる。それは生温かいような、鉄が錆びたような。大量の血液が溢れかえっていた。



「……戻ってきちゃったんだね、役立たずのボクの弟」



 足元には首のない藤野見と青マントの男。扉と反対側に落ちている赤黒いそれはおそらく、二人の頭。体と頭の間に立つのは二人の血で赤く染まった兄の姿だった。




後半エグくてすみません。

次も結構エグいの書いてます。

全部妄想で書きました。

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