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幕間 星迷宮と祈 9

お待たせ致しました!

 

 現れたのはレナだった。一緒に来ていた他の兵士三人は完全に気絶している。白天を見せられているのなら、しばらく起きないだろう。術者のレベルにもよるがレナならば日没に起きられるかどうかだ。



「この任務四人なのね」

「できるできないじゃなくて、多分僕が逃げ出さないようにするためなんじゃないかな」

「…………」



 周りを見渡しても、ここは森の中。鳥の鳴き声はない。羽ばたく音もない。もちろん他の獣もいない。



「今、なんの幻を見せてるの?」

「……壁が剣では破壊できなかった夢」

「……それは助かる」



 へへっと少年は笑う。一通り試したものの、霞桜に攻撃したことが伝わっているのか分かっていないため、ここを離れることができない。たしかに都合のいい幻を見せてくれているんだと、少年は肩の力を抜いた。だけどレナはまだ安心できない。



「マーラが死んだ。殺したのは操られていたあなたの弟」

「!!」

「マーラの、母様の魔力はわたしが継いだ。わたしはもう鈴蘭には居たくない」

「……ごめん。謝ってもどうしようもないけど、でもごめん……」



 少年は跪いて謝罪するが、レナから言葉も視線もない。それでも少年は頭を上げることが出来なかった。自分たち兄弟を気にしてくれた姉妹。……いや母娘。もっとしっかり心を通わせることができれば、またなにか違ったものを得られただろうか? 考えても仕方のないことだけれど、ふとそんなことが頭をよぎった。



「それはわたしも考えた。もっと早く動いていたら、あなたの弟は純粋なままいられたのかもしれない」



 はっとして顔を上げる。いま自分は声に出していなかったはず。頭で考えていただけなのに、とそう考えてレナを見ると、すまなさそうに顎を引いた。



「生まれつき、なんだと思う。昔からその人の顔を見ただけで心の中まで読めてた。母様はマヌエラっていって、北の生まれ故郷では『神と共にいる』っていう意味なんだって。わたしのエレナっていう名前は『私の光であれ』って意味らしいんだけど、わたしのこの力はみんなに嫌がられて……」



 そうして流れて鈴蘭に来てしまったという。



「鈴蘭ではこの力を隠していたけど、もしかしたら城主や幹部たちは気づいているのも居たと思う。ずっと母様に助けてもらってた、から。だけど……」



 マーラは死んだ。操られていたとはいえ、回復魔法をかけなかったのは母と娘で交わした約束の下だ。



「母様はもう長くなかったみたい。鈴蘭に飲まされた毒のせいで、身体の寿命が一気に縮まったって言ってた。あなたもあなたの弟も、気をつけたほうがいいと思う」

「それ、は……。でも、気をつけるなんて……どうやって……」

「これをあげる」



 そう言って、レナはグチャッと片目を潰した。



「うわっ!!」

「大丈夫。魔力のかたまり。これを目にあてる」

「うぅっ……あっつ!!」



 レナは難なく瞳から魔力のかたまりを取り出し、それを少年の目に押し当てた。魔力に熱さがあるのか、思い込みなのか、少年にはそれは熱いと感じた。

 レナの瞳の色を気にしたことはない。だけど今、確かに違和感がある。元の色を思い出せないまま、少年は両の目に熱を灯した。瞳が熱い。目を開けたくない。だけどそんなことを言っている時間がないというのは、少年も感じていた。マーラが死んで、レナが国の端っこにいるのだ。追手がかかっていても仕方ないと思われる。自分が命令を出せる立場なら、捕まえろと言うだろう。

 痛いのか痛くないのかよくわからないけれど涙があふれる。そのぼやけた視線に、いつもとは違うものが浮かぶ。景色はいつも通り。だけど少女の頭のすぐ上に、紙に書いたような言葉が浮いている。


『引き受けてくれて、ありがとう』


 視線を合わせれば、笑って頷いてくれた。

 こんなふうに、見えていたのか。こんなふうに見えるのか。

 両目はもう熱くないし痛くもない。なのに今になって、あたたかな涙がこぼれ落ちた。レナではなく、寝転んでいる兵士を見てみると、『この任務は破壊できなかったで終わるだろう』というものの他に小さく、『帰りたい』とも見えた。早く家に帰りたいということなのか、誰かのもとに帰りたいのか。少なくともこの兵士の心に、帰る場所があるのだろう。

 そしてとなりに眠る兵士をのぞき込むと『幹部が出揃った。この任務が終われば鈴蘭の勝利』と見えた。ゾクリとした。



「わるい! 僕行かなくちゃ!!」

「じゃあここの後始末はわたしがやる。ここに来たのは三人だったっていうのを夢に見せてから行く」

「ごめん、本当にありがとう、えと……エレナ」

「ううん。助けられなくて本当にごめんなさい。あなたにとって幸せな方向へいけるように、祈ってるね。秀孝ひでみち



 そうして二人は背を向けて進んだ。


 

読んでくださってありがとうございます。



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