表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/86

幕間 星迷宮と祈 5

ズレてしまってすみません!


 兄と別れたあと、定孝は案内のものにつれられて薬室へやってきた。昨日は門前払いだったが今日はすんなり入れる。藤野見の命令があっただけでなく、昨日いた態度の悪い男がいなくなっていたのだ。ビクビクしていた定孝はホッとしながら足を進めた。


 薬室は地下にあった。扉をくぐると長い階段があり、何階分かわからないくらいおりた。そして待ち構えていたのは藤野見ともう一人、十代くらいに見える若い男。今まで見たことのない、茶色のマントをつけている。誰だろう? と思った瞬間、背中に鋭い痛みが走った。



「頭を下げねぇか!! 城主様だ!!」

「えっ!!」



 この若い男が城主? そう思えたのは最初だけで、藤野見ではない知らない男に殴られ、そのまま床に押しつぶされていた。



「すみません!! 躾ができていなくて……」

「いい。下がれ」

「へ……しかし!」

「藤野見とこの子供以外下がれ」



 決して怒鳴っているわけではない。静かに伝えているだけなのに、大人たちは黙って下がっていった。

 室内はしんと静まり返る。藤野見も城主も、もちろん定孝も口を開かない。年端も行かぬ子供が圧をかけられているようにじろりと見られている。何を言われるか、何を聞かれるか全くわからない。想像もつかない。いや、想像はできる。兄のことだろう。きっと自分のことを聞かれるより、兄のことを聞いてくる方が多そうだ。



「本当に普通の町の子供なんだな」

「はい。検査はこれからですが、特に特筆すべきところはないかと」

「しかし殺すな。アレとの契約だ」

「承知しております」



 ぺたりと座り込んでいたため、二人が話している表情は見えていない。しかし物騒な言葉が出てきては肩が震える。



「……子供」

「ひゃっ……はいっ!」

「お前の名は?」

「あ……」



 名前は告げないと、兄と茨姉妹に教えてもらった。しかし断り方まで聞いておらず、定孝は困ってしまう。兄はきっときっぱり断りを入れているだろうが、同じことを定孝が出来るとは限らない。



「城主様のめいだよ。答えなよ」



 藤野見が耳元でささやくように言う。しかしそれでも定孝は唇をかみしめて沈黙した。



「厄介なことを教えたな……」

「まったくです。しばし任務を増やしましょうか」

「いや、この子供に本当のこと・・・・・を伝えてやれ。時間がかかってもいい」

「かしこまりました」



 定孝をちらりと見てから城主は去っていった。鈴蘭の幹部たちの怪しい笑い方がどうにも慣れない。背筋がゾクリとする嫌な笑い方だ。



「さて、では貴方にはあなたの兄にも伝えていないことを教えて差し上げます。あ、その前に魔法か体術か、合う方を調べさせていただきますね」



 ふんふんと鼻歌でも歌っているのか、藤野見は机の上に何やら液体の入った皿を持ってきた。定孝は対面上に座れと言われて大人しく従う。



「お兄さんの役に立ちたいという気持ちは本物なのですね」



 そうしてゴニョゴニョとよくわからない言葉を唱えている。町にいた頃、魔法使いは身近な存在ではなかったし、魔法が使えるものは皆城に入っていたはずだ。藤野見は皿に何か粉のようなものを入れる。すると中の液体は真っ黒に染まっていく。



「わっ!?」

「ふむ。どうやら貴方は魔法使い向きですね」

「え? そうなんですか? でも僕何もしていない……」

「これは我々薬室が開発した魔法の水ですから。その人からにじみ出るオーラを感じ取ってくれるのですよ」



 だいぶ胡散臭いことを言っている気がしたが、兄の役に立つために魔法が使えるならそれでもいいと思えた。



「じゃあ僕は魔法が使えるんですか? 兄の怪我を治せますか?」

「訓練次第になりますけど、頑張れば使えるようになるでしょうね。さて、それでは貴方に伝えなければならないことをお伝えしますね」



 机の上を片付けて、藤野見は背筋を伸ばし手を組んでまっすぐ定孝を見る。ふっと、定孝もつられて背を伸ばしてしまった。



「我々鈴蘭国は、十年後に淡桜・水仙両国を配下におさめる計画を持っています。そのために、貴方がた若い世代に力になっていただきたいのです」



 定孝は淡桜と水仙の国のことは話にも聞いていない。周りの誰も日々の暮らしで手一杯で知らないからだ。自分と自分の大切な人が生きるか死ぬかの瀬戸際にいるとき、隣国の様子など気にしていられない。今ここで藤野見から聞くに、両国はとても裕福で食料もあるに関わらず、鈴蘭を敵視していて恐ろしい存在なのだそうだ。



「貴方が今魔法使いとなれば、そこには茨姉妹という魔法に特化したものがいます。同時に体術班には貴方のお兄さんと剣術の天才と呼ばれている少年がいます。あと数年頑張っていただいてから、貴方がたの中から誰か、淡桜か水仙に暗殺に入っていただきたいのです」



 正直、突拍子もない話だった。夢物語と言われたほうが説得力があったかもしれない。茨姉妹や兄はともかく、自分は魔法のまの字も知らない、ただの子供だ。足手まといになるとしか思えない。無理だと答えれば、もっとずっと厳しい顔をして、定孝を更に地獄へ落とす発言をした。



「大変言いにくいですが、近々貴方のお兄さんは裏切り者として処分されるでしょう」


 

ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ