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幕間 星迷宮と祈 4


「風が気持ちいいね」

「うん。町よりちょっと高いところにあるから?」

「だと思うよ。それにあそこには病気の人とか死んじゃった人とかもそのままだったしね。空気はだいぶ汚れたままだったんじゃないかな」



 思わぬことを言われて、定孝は身震いした。知らないままでいたかった。

 あちこちを見て、そこであった人に話しかけて挨拶をする。三十から四十代の男の人が最も多く、自分たちよりちょっと年上だろう二十代もちらほらいる。中途半端な十代はあまり見かけず、同じくらいか年下と思える子どもたちもいた。子供の中には女も男もいて、年上の女はほとんど見かけなかった。外にいないだけなのだろうか?

 しかし声をかけても素っ気なくされるばかりで、挨拶を返してくれたのは一割いたかというところだった。



「茨姉妹いないね?」

「うん? 気になる?」

「え……いや別にそんなことは!」

「有名人だもんね。一度くらい僕も見てみたいよ」



 何やら話が噛み合っていないと思ったが、兄の言葉はわざとだった。あの部屋に来たことは秘密だし、いろいろ教えてもらったこともなかったことになっている。

 本当に口を閉ざしていないと、定孝自身が兄を不幸にしてしまいそうだ。けれどそんな考えを見抜いたように、ポンと背中を軽く叩かれる。



『大丈夫。フォローする。お前は変わらないでくれ』



 そう言われているようだった。

 場内を時計回りに回って、ひとまず生活できるだろうというところまで来た。このままぐるりと回って部屋に帰ろうかとしたところ、突然この先には入れないと言われた。



「この先には何があるんですか?」

「僕たち今日ここに来たんです。また間違えても怒られませんか?」

「何度も言わせるな!! めんどくさい!! 早く消えろ殺すぞ!」

「……失礼します!」



 ぺこりと会釈してその場を離れた。しかし道を外れると、ここから部屋に帰る方向が分からなくなってしまいそうだ。迷うよりはとくるりを方向転換すると、あの赤マントの男が立っていた。



「ひっ!」

「おやぁ? ここで会うとは思っていませんでしたが、どうされましたか? この先は薬室関係以外の者が入れる場所ではありませんよ?」

「すみません! ちょっと散歩するつもりが迷ってしまって!」

「……ふぅん。なるほど。初日ですもんね。それは仕方がないか……」



 頭からつま先まで値踏みするようにじっとり見つめたあと、この先にあるのは薬室で、関係者以外立入禁止だと再度伝えられた。そして入り口にいた男の態度も謝罪してくれた。



「躾のなっていない男で申し訳なかったですね。怖かったでしょう?」

「……少し。でも大丈夫です。大人には色々あるでしょうから」



 定孝はコクコクとうなずくだけで、徹底して口を開かない。赤マントの男に不思議そうに見られたが、兄の手をぎゅっと握って耐えた。



「弟は怒られたのがだいぶ怖かったみたいです。そろそろ僕たち部屋に帰ります」

「そうですね……弟さんのお仕事を考えたのですが、もう少し日を伸ばしましょうか? お兄さんは明日からまた任務がありますが……」



 そう言われて定孝はパッと頭を上げてしまった。赤マントの男はやはり不気味に笑っている。兄がぎゅっと手を握ったが、遅かった。



「朝、昼前に使いを出します。私の名は『藤野見ふじのみ』と言います。よろしくお願いしますね」

「弟が、薬室に入るということですか?」

「いえ、まずは適性検査をさせていただきます。あなたもやったでしょう? そのあと得意不得意の話を聞いて、正式に任務が与えられるのはその後でしょうね」



 城に入って二日目にして兄と離れることとなった。部屋に帰ってきても食事は喉を通らず、体を拭き合っても不安までは消えてくれなかった。

 布団をニ枚くっつけても離れたくなくて、結局一枚の布団で兄に引っ付いて眠ることにしてもらった。



「大丈夫。ヤス、僕は帰ってくるし、ヤスも無事に戻ってこられる。朝と夜は、ちゃんと二人でご飯を食べよう?」

「……うん」

「役に立たないと殺されるって噂があるんだ。だから、できることはやろう」

「……うん」

「心配しないで、何かあったら僕のことを呼ぶんだよ?」

「……兄さん」



 何をどう聞いても、どう答えても不安は拭えず、互いに手を繋いで顔を見つめ合う。いつしか眠っていた。

 そして朝、二人は一緒に朝食を取ったあと定孝は兄を見送り、自身も案内につれられて昼前に部屋を出た。その後二週間、二人は会うことができなかった。


 

ありがとうございます。

14で終わらなかったので延長します。

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