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幕間 星迷宮と祈 3

 茨姉妹が出て行っておよそ五分。お互いだけに分かる約束をして、準備を終えた兄と荷物を分け合って家を出る。手を繋いで歩いていると、濃紺のような暗い青のマントをつけた者たちが十人ほど、前を塞いだ。



「ひっ……」

「……だれに」

「来てくださるとは思っていましたが、早かったですねぇ?」



 しかし言葉を発したのはその後方真ん中から歩いてきた、臙脂のような暗い赤のマントを付けたものだった。その人物は紛れもなく定孝と話をした人だった。口元はあのときと同じように嫌な笑い方をしているのに、目元だけ冷たい視線だ。



「その赤いマント、あなたが噂に聞いた薬室の人ですか? 薬をもらえたおかげで傷が治りました。ありがとうございます」

「ありがとう、ございます」



 なんの感情も込めずに、兄は淡々と告げる。兄のあとに続いて定孝もペコリと頭を下げた。赤いマントの男は口元に手を添えてツッコミを入れてくる。



「……お礼は閣下に。それより私の噂というのは? 誰かに聞いたのですか?」



 誰が緊張しているのか、空気がビリッとする。定孝は思わず下を見たが、手を繋いだままの兄はしっかりと前を見て告げる。



「誤解させてしまってすみません。話は弟から聞いています。僕の後を、付いてきたようで……?」

「ええ。あの怪我でしたからね。なるほど、仲の良いご兄弟ですね」

「ありがとうございます。ところで僕たちはこれから城へ向かえばいいのでしょうか?」



 話している間にも値踏みする視線は無くならなかった。それでも決して下を見ずに兄は定孝を守った。自分たちの周りを囲う濃紺のマントをつける者たちは何も話すことをせずに立ちつくしている。けれど逃げる素振りを見せれば、追いかけて捕まえるだろう。そうなったら兄弟は離ればなれになってしまう。



「あなた方の部屋は用意してあります。まだ十歳前ということで二人一緒の部屋にしましたが、別にしたければいつでも言ってください。また弟さんの所属が決まれば、別になる可能性が高いということだけ、先にお伝えしますね」



 歩き出しながら、ニコニコと楽しそうに赤マント男は話す。本音はさっさと別々にして人体実験でもしたいのだろう。

 城へ向かいながら基本的なことを話してくれた。マントを付けているものを幹部と呼び敬うこと。赤いマントが薬室関係。青いマントは体術や剣術等、武器を使うもの。黒いマントは魔法使いたちだ。それぞれ訓練場や普段過ごす場所があるが、出入り口の前で用件を言えば入れること。しかし運が悪ければなぶり殺されることもあるらしい。



「門番のような役職はないのですか?」

「酒に溺れているものがいるようなんですよ……こちらも取締はしているのですが、なかなか無くならなくて困っています」



 ちっとも困っていない顔で男はいう。おそらく何も取り締まっていないのだろうと兄弟は考えた。



「さ、こちらから参りましょうか」



 城門をくぐり南の方角へ進む。櫓台に立つ者たちに新入り兄弟の紹介をして入る。案内されたのは三階の角部屋。広い部屋だった。



「生活する分の荷物はこちらで用意してあります。確認してください。このリストと照らし合わせて、足りなければ追加してくださいね。何かあれば下にいたものでも、私でもいいので言ってくださいね」



 本当に案内だけして、赤マントの男は帰っていった。

 疲れた。やっと二人きりだ。



「兄さん、ごめ……」



 定孝の言葉を片手で塞ぐ。首を横に振って耳を指差す。兄の表情は前の部屋で二人きりのときとは全然違う。まだ安心なんかしていなかった。その表情で、定孝は誰かが聞いているという考えに至った。

 緊張状態を解くことができず、定孝は途方に暮れる。いつもみたいに兄と遊ぶこともできないし、兄の名を呼ぶことももちろん禁止された。兄は城での仕事をしている最中も自分の名を明かすことはしていなかったそうだ。



「疲れていないか?」

「え? う、うん。大丈夫だよ」

「ちょっと散歩しよ! 僕たちが行ける範囲を知っておきたい。迷うのも嫌だし、水場も知っておきたいね」



 そう言って本当に大事なものは持ち歩くようにした。と言っても身元がわかるとかではない。お互いに書いた手紙だ。名前はもちろん自分がいかに相手を大切に思っているかが書いてある。二人は部屋の場所と門番の顔を確認して、断りを入れて外に出た。

 

ありがとうございます!

次は明日間に合わなかったら明後日月曜日になりますすみません!

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