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幕間 星迷宮と祈 1

すみません。長いので過去編を幕間とします。内容は変えてません。読み方は『ほしめいきゅうと いのり』です


 いつからかだろうか。一体いつから此処に至る道を進んできたのだろうか。


 定孝はいつだって素直に生きてきた。幼い頃は兄にくっついて、兄が通る道を真似て自分もその道を選んできた。それは、確かに自分の意志だった。兄のようになりたい、兄とともに生きていたいと思い願っていた。

 気がついた頃に親はいなかった。食べ物を持ってきてくれていた存在は、ある日を境に消えた。定孝には兄がいたから、不思議だと思ったことはあったが気にせずに生きてこれた。

 それは先代鈴蘭城主の命令で、役に立たない老人は巨木の祭壇に捧げ物として送られていたからだったが、幼い年齢の者は知る由もない。


 お腹が空いたと言葉にすれば、食料を持ってきてくれた。硬いパンで、数回貪ればなくなってしまうカケラでも、定孝は黙ってそれを口にした。ときには持ってきたパンすべてを、兄は譲ってくれた。兄が持ってきたのだから兄も食べてほしいといっても、定孝のために持ってきたのだから全部食べていいんだと笑ってくれた。寒いと呟けば、どこからか毛布を持ってきてくれたり、屋根のある寝床を借りてくれた。二人で一枚の布に包まって眠ったことも数え切れぬほどだ。兄は疲れているだろうに、夜が怖いと呟けば眠るまで背中をさすってくれていた。この時確かに、定孝にとって兄は親であり、養ってくれる存在になっていた。


 十歳を前にして、兄は城に出入りできるようになっていた。そのおかげか、城の近くに家を借りることができて、食べ物も水も新鮮ではないものの蓄えることができるようになっていた。何がどうなっていったのかは全くわからない。定孝は何もしていないのだ。兄に聞いても、


「大丈夫。定孝は僕が守るよ。僕たち兄弟はずっと一緒だよ」


 と、いつも同じ答えだけを聞いていた。それ以外の言葉はない。不思議に思って聞きたくても、なぜか聞いてはいけない空気となり、聞けずにいた。


 いつだったか、ボロボロの姿で兄が寝床に帰ってきた。傷だらけで血が固まっている状態で何も発さないまま部屋に横たわった兄は、気絶したかそのまま眠っていた。素人の手当では間に合わないのではないかと本当に心配した。けれどそれは杞憂に終わった。兄の後について、そっと城からの使いと名乗る者が来たのだ。



「傷が深いので手当をと思い、しかし彼に断られてしまいまして……。どうしょうもなく心配でしたので、こちらについて参りました。ソレのあとにコレを飲ませてください。しっかり眠れば、目を覚ますでしょう」



 穏やかな表情で兄のことを心配してくれていた。定孝はすっかりその者を信じて、言われたとおり兄に薬を飲ませた。見届けてそのまま去ろうとするその者に、定孝は藁にすがる思いで一つ心の内を吐露した。



「兄の役に立ちたいのです! 何か僕にできる仕事はありませんか!?」



 目を丸く見開いて驚く一方で、口元はなんとも言えない嫌な笑い方だった。勢いで告げてしまったことに少しの後悔を残した。



「なんて健気な……いいでしょう。私から上官に相談してみますよ。お兄さんが目を覚ましたら、貴方も一緒に城へ来てください。──約束ですよ」



 以前とは違い、食事は備蓄したもので補えた。井戸水だけでなく、雨水も活用して兄の体を拭き服を着せ替えた。布団を差し替え清潔な状態を保った。不思議なことに、あれだけボロボロで傷だらけだったにも関わらず、傷はほとんど消えていた。兄が目を覚ましたのは使いが来てから二日経ってからだった。



「定孝! 起きて!!」

「う……う、ん?」



 看病疲れで眠っていた定孝を大声と揺さぶりで起こした兄は、目が覚めたと喜ぶ弟を叱りつけるような剣幕だった。



「に、兄さん……?」

「どういうこと!? あれだけの傷……お前は誰に会ったんだっ!? 何をしたんだっ!?」



 まさか叱られるとは思わず、兄をまっすぐに見ることができない。いつもやわらかいまなざしをくれた兄とは別人だった。恐ろしくて、そして使者の嫌な笑い方を思い出してしまい、やってはいけないことをしたのかと震えた。

 助けたことを褒めてもらえるかと思っていた。薬を飲ませて体を拭いて水を飲ませて。慣れない看病大変だっただろう? と、そう言ってほしかった。けれど今の兄は、知らない怖い人のようだった。

 目を逸らしたままでいたかったが、怖い顔の兄に肩を掴まれて逃げることができない。何も考えることができずパニックに陥っていると、定孝が言葉を発する前に、兄が手を離した。表情は知らない怖い人のまま、戸口に向かって声を出した。



「……誰だっ!?」


 

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