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五章 三日月の絆 9


 康矢は雪の背中に手を当て、二人で魔力を高めていく。高位魔法はコントロールだけでなく大量の魔力も消費される。雪は今まで一人だけでの高位魔法を扱えていない。なので康矢も残りわずかだろう魔力を高め、補助に徹することにした。



「大丈夫です。守りたいという雪の願いは大きな力になります。自分を信じてくれる姫たちを信じて唱えてください」



 康矢の補助を背に受け、雪は炎の壁を消すために唱える。



「──それすなわち水清すいせいけん! 【白竜(はくりゅう】」



 雪の両手が淡く光る。それから手を広げると、水でできたと一目で分かる竜が現れた。思った以上に小さなサイズではあったが、雪の周りをぴょんぴょんと飛び跳ね、なんの躊躇いもなく炎の壁に向かって飛び込んでいった。



「あれ?」



 そういったのは誰か。

 その不安を打ち消すように、小竜は炎の内と外を行き来して、その炎を食べて吸収していく。自らのウロコと変えてゆき、小さかった身体は長く大きくなる。立派な龍となる頃には、周りの壁は完全に消えていた。



「すげえ……」

「あのちっこかったのが……?」



 壁の近くにいたらしい楓牙と登流が、目をまん丸くしてこちらを見ていた。

 龍は雪を見て、長いヒゲをピクリと動かし、さざ波のような音と共に空気に溶けていった。



「ふー。上出来でしたね、雪。助かりましたよ。コツはわかりましたか?」



 おでこに汗を浮かべて康矢は聞く。敵陣真っ只中で聞くことではないと頭では分かっていても、聞かずにはいられない。

 聞かれた雪は全てを出し切ったかのように息を切らせている。かろうじて座り込んではいない。



「はい……たぶん。なん、となくですが……。水が優しかった、と思い、ます」



 その答えに康矢は満足という意味を込めてうなずく。ようやく一人前になってくれただろうが、三人の前に立つ男は雪の言葉にブチ切れた。剣を構えていたがプツリと糸が切れたようにその場に膝をつく。剣はその手から離れて落ちる。



「ふざけるなぁっ!! 優しいだと!? そんなものが何になる! 忌々しい……貴様はいつもいつも、邪魔ばかりしやがって!!」



 定孝の激昂に、康矢と惟月は訝しむ。惟月は右手をそのままにして左手に持つ刀をしまう。康矢は惟月の半歩後ろについた。雪はそのまま二人の後ろだが、定孝の目は見える。



「定孝、雪はそんなに貴方達の邪魔をしていたのか?」



 静かに問う。貴方達、といった言葉に気づいているのかいないのか、定孝は怒りから顔を赤くする。話しているのが惟月とは気づいていなさそうで、雪だけを睨みつけている。



「すべて貴様が悪いんだ!! なぜ今現れる!? あのまま消えていればよかったんだ! 貴様が、お前が全て壊した!! あいつを殺したのはお前だっ!!」



 定孝の言葉に、惟月は一歩前に出ようと足を出す。しかし重心を傾ける前に、雪は名を呼んだ。



「定孝殿、“あの旅人たち”は貴方が集めたと聞いています。それに間違いはないのですか?」



 その言葉に惟月は思わず振り返って雪を見る。康矢は怪訝そうな顔をして定孝を見つめる。三人そろって目の前の男の答えを待つ。



「あの……旅人? 意味がわからないことを言って惑わすなっ!! だいたいなぜ現れる! あのときも今も、なんのためにっ!!」



 しかし望んだどころかまともな答えが返ってこなかった。康矢は目を伏せ、惟月は右手の剣を強く握りしめる。

 雪は立ち上がり、康矢と惟月の間を抜けて身をかがめた。得物である槍は康矢に押し付けるようにして渡した。今現在雪にできる精一杯だ。



「定孝殿。私は私の道を決めたんです。誰に命令されたわけでなく、お願いされたのでもなく。自分で決めて、自分と約束をした。後悔しないように、大切な人を守るために。……一緒に、笑うためにです」



 武器ではなく、魔法でもなく。伝わらないかもしれないけれど、もう手遅れかもしれないけれど。人として、言葉でつなぎたかった。

 目線を同じ高さにして、しっかりと見つめて。



「定孝殿、私は自分が自分らしくいられる道を探して進みます。貴方は、貴方たちはどうされますか?」



 静かに話した雪の言葉に、定孝はくしゃりと顔を歪めた。雪の言葉が届いている証拠でもあった。今ならまだ間に合うかもしれない。そう思い康矢が口を挟んだ。



「いま、誰の顔を思い浮かべましたか?」


 

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