五章 三日月の絆 7
定孝は剣を持ち構え直し二人に向く。決められた呪文を唱えながら剣に手を添えると、剣は淡く光った。
「へーぇ。キレイですね……」
感動するような声を上げた康矢を、惟月はチラリと見やる。表面上には出していないものの、声が震えている気がした。多分かなり驚いているのだろう。
ただでさえ直前に玖のことで頭がいっぱいになったのにすぐに戦うことになった。自分の魔力を剣に移すことを、なんてことない顔でやってのけた定孝に驚き、そしてそれを見て驚いた自分に動揺した。自分たちはおろか、淡桜にそのような事ができる者は城主だけではなかろうか、そう思っていた。
「俺もやってみよーっと」
考えることに雁字搦めになっていた康矢の耳に届いたのは横から。定孝と同じように剣を構え手を伸ばし、言い慣れた呪文を唱えながら剣に触れる。
「森羅・破魔・孤高の道。有権者の砂の城。それすなわち雷鳴の剣 【千雷】!
──雷よ、この剣に宿え」
低く空に集まっていた雲の中に稲妻が走ったかと思うと、惟月の手元めがけて線が一つ落ちてきた。
「惟月!?」
思わず声が出た。
強い光に包まれ、それが消えると剣は定孝と同じような淡い光を帯びていた。ちがうのは色だ。定孝の赤い光に対して、惟月の剣は黄色く光る。それを見た惟月は、康矢にニヤリと笑ってみせた。
「康矢もやります? コントロールが上手ければいけると思う」
“うだうだと考えるだけならやってみろ” といわれた気がした。非常に不本意だが、肩が軽くなった気がする。考えもしない康矢は小刀を懐に戻し、右手で首にかけている数珠を握った。そのまま惟月には一言。
「剣技は任せます」
もちろん返ってくる言葉も一言だ。
「任された!」
意図を読んで惟月は前に出る。登流と剣を交えたときとは違う。時間稼ぎなどではなく、倒すために振るう。定孝は剣に強くないのか、惟月と打ち合いが始まると魔法を唱えることはなかった。
「……ぐっ……」
さらに康矢の作る風は惟月の背中を押し、守り援護している。定孝へは向かい風で押し戻し、更に砂も巻き上げている。詠唱を略し、数珠に込めてある魔力を使い、いろいろな風を送る。
二人はたいして話し合うこともないままに、次々に協力した技を繰り出していた。
「魔法を、略すとは……」
「すごいですよね、あの人」
定孝は厄介だと全身で悪態をつく。惟月の剣を受け止めるも、雷を宿しているそれからはビリビリと電撃が響いてくる。柄を握る手はだんだんと痺れてきていて、力が入っているのかどうか分からなくなる。
一方で定孝の剣は炎を宿していて、高熱をぶつけているはずなのに、惟月の顔にそのような苦しみは見られない。不利だと悟った定孝は次の手を選んだ。
(あいつらは先程……力をとられている。……すぐに尽きるはず!)
剣を鞘に戻し、胸の前で両てのひらを合わせて早口で呪文を唱えた。
「──それすなわち炎華の剣! 【炎環】」
それは高位魔法の呪文だった。自分たちの周り一面が炎に包まれて、文字通りの炎の環が壁となって現れた。




