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五章 三日月の絆 5


 玖と緋名の言葉を聞いた五人の男たちは、作戦できめた相手を見据える。

 定孝には康矢と惟月が。城主には登流と楓牙と渓の三人。五対二の図を、二人の姫が見ていた。けれどその構図が分かるやいなや、定孝は首を横に振った。



「俺の相手はお前たちか」

「不服ですか?」

「いいじゃないか。魔法使いには魔法使いを」

「……そっちの坊主が風で、お前は雷だったな」

「定孝さんは火と土、でしたね?」

「……気づいたのか?」



 定孝が不思議な顔をして問うと、惟月が鋭く返す。



「甘く見るな」



 だが惟月の睨みをかわして定孝は笑う。そのまま城主へ近づき、何やら耳打ちをした。何を言っているんだ? と誰もが思った次の瞬間、壊された壁の向こうに巨木が現れ、定孝と城主はその巨木に捕まって外へと出ていってしまった。



「逃がすか!!」



 楓牙と渓が壁の外を見るも、巨木はすでに消えていて、影も残っていなかった。



「追うぞ」



 楓牙が緋名を抱え、惟月が玖を抱えて、それぞれがゆっくりと壁と屋根を伝って下りてゆく。体力を奪われ疲れているといっても、自分たちより小さな姫を抱えることは苦ではない。けれど姫たちは口を開かなかった。



「玖姫? 重くないから大丈夫ですよ?」



 惟月が小さな声で茶化しても、玖は反応しない。



「緋名姫も軽いよ?」



 珍しく、本当に珍しく楓牙も軽口を叩いたが、横から一瞬で般若が出てきたため、口を閉ざすことになった。



「えっと……うん、よかった」



 緋名に気を遣われてしまったその直後。



「ねぇ、どうして外に出たんだと思う?」



 玖の口から出てきたのはそんな疑問だった。いくつかある松明の方向をじっと見つめていた。



「あのせまい空間で火を使ったら城主にも燃え移るとかですかね?」

「火と土、二種類の魔法を使えるのなら、魔力のコントロールもあるはずなのに?」



 簡単に思ったことを惟月は口にする。しかし玖の意味を汲み取り、すぐ後ろに付く康矢も答えた。



「なにか、意味があるということですか?」

「鈴蘭の連中に意味はないと思いますよ?」



 足を滑らせないようにして屋根を伝い、地に降りる。舌を噛まないように惟月が口にしたのは、そんな侮蔑の言葉だった。けれどしっくりこない。

 まだ玖が考え込んでいるのを見て、康矢は背後に問いかけた。



「渓、なにか感じ取れますか?」



 渓は抱えられた姫たちが地に足をつけるのを確認し、それから周りを見る。自分たちの後ろにそびえたつ不気味な城。前に立つ二人の敵。頼りになる仲間と主である姫たち。

 それでもなお、違和感しかないことを告げる。



「いま、僕はすごく怖いです。気を抜くと膝が震えそうになります。外に出てからよりいっそうそう感じてます」



 何故か、と付け加えようとしたが、それは玖の言葉にかき消された。




『しっかりしなさい!! もっと心を強く持って! 私たちは一人も欠けることなく、みんなで一緒に帰るのよ!!』




 “ 命令 ”のように叫ばれた言葉に、六人の士気は上がる。けれど一瞬のうちに玖の熱は冷めた。



「あっ」



 ついうっかり口調を荒らげてしまい、しまったと思った。けれど一度出た “言葉” は取り消せない。それが分かっているから、康矢と渓の表情は曇ってしまった。



「……玖姫」

「もっ……ごめんにゃさい!! な、なるべくもう使わな、い」



 顔の前で両手を合わせて舌をかみながらも必死に謝っている。さすがに他の者たちもおかしいと思う。



「玖、どういうことなの?」



 こころなしか、緋名の声が怖い。恐る恐る視線を上げると、緋名は泣き出しそうな顔をしている。だけどそのすぐ後ろにいるおかめだったはずの人がもっと怖い。すごく怖い。できれば口を開かないでほしいと願ってしまった。でも、世の中そんなに甘くない。



「……玖姫、それは先程言っていた禁術とかいうやつなのですか?」



 登流の言葉に惟月も楓牙も息を呑む。いまの玖にとって言われたくなかった、核心をつく問いかけだ。禁術に関してはほんの少しだけ、康矢と登流と三人で話をしていた。

 玖は初めて登流が怖いと思った。惟月とダブルでキたら生きていけないと察した。しどろもどろになりながらも、ちゃんと自分で答える。そうでないと、だめな気がした。



「ちがう……ちがうよ。禁術じゃ、ないよ」

「けれど、それに近いものではあります」

「康矢!?」



 隠したかったわけではないのだが、今は言いたくなかった。だがあっさりとバラされてしまった。じとーっといくつもの目が玖を見る中、観念してすべてを話す。

 魔力の消費が激しいもので、いまの玖の力では頑張っても四回が限度であるということ。それでも独断では使わないということ。城主である父と側近の康矢の二人が了承しなければ、詠唱しない決まりにしていた。あくまでも最後の手段であった。



ありがとうございます

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