表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/86

五章 三日月の絆 3


 二人になっても変わらずに、階段を上る。玖の右手は登流の裾を握っている。途中、ふいに登流が、玖に左手を壁に付けて歩くように指示した。



「迷わないために、です。覚えておいてください。迷路などでも、役に立てるかと」

「わかった。ありがとう」



 始めよりはゆっくりと歩を進め、階段と廊下の間が狭くなってきたところで、緋名と同じように、いきなり掴んでいた着物が消えた。二度目だが、どうにもよく分からない感触だ。



(……登流くん……)



 確かに手の中に在ったはずなのに、するりと抜けた感触が無いまま、気付くと手の中には何も残っていない。夢の中で掴んでいて、そのまま目覚めたような、そんなものだった。



「大丈夫、大丈夫。みんな、上の間にいる。無事でいてくれる」



 ついに登流の姿も消えてしまい、玖はひとりぼっちになる。暗闇を歩くけれど、一時のような不安はない。皆を助けるため、迎え撃つような覚悟で足を進める。

 いま、ここには自分しかいないけれど、心は決して独りではない。強気に階段を上る。



(こっちで、いいんだよね……)



 進むべき道への不安はあれど、仲間の危機に関していえば、ない。迷いそうになったら、言葉を出せばいいと、玖は知っている。本能で修正をかけるだろう。

 そうして、見覚えのある場所に出る。



「……ここ……」

「よく、一人で来たな」



 解放感のある広い部屋。たてにも横にも奥行きがある。部屋の四隅に小さな灯りがあり、部屋を薄暗く照らしている。一部の壁はなくなっていて、外が丸見えだが、その他の壁や床、天井にいたるまで黒い血が残っている。それらはのっぺらぼうが戦った結果なのだが、玖は気づけない。


 その部屋のど真ん中に、鈴蘭の城主が立ち、傍らに黒マントの男、定孝が控えていた。

 そして、何よりも。



「みんな!!」



 城主たちの後ろ、暗い部屋の奥に、柱にくくられた六人がいた。皆、目を閉じているようで、玖に気づいていない。両手は後ろに回され柱に縛られていて、首にも縄がかけられていた。

 一見しただけでは、生きているのか死んでいるのか分からないはずだが、玖は確信している。みんな、眠らされているだけだ。

 ニタリと笑いながら玖を見て、鈴蘭の城主は口を開く。



「あぁ、この者たちは、不幸な人生だったなぁ」

「みんなの気持ちはみんなのものです! 勝手に決めないで!」

「そなたがあのとき、(われ)の嫁になると了承していれば、こんなことにはならなかった……」

「私は、自分を犠牲にすることはしません!」



 そんなことを勝手に決めたときには、それこそ色んなところから色んな雷が落ちてくるはずだ。玖は分かっている。もちろん先ほど緋名とした話も覚えている。



「だが、その強がりも意味はなくなる。この者たちは」

「生きてる! 私たちはみんなで帰るんだもの!!」



 城主の言葉にかぶせて言い切ると、定孝はチッと舌打ちをした。



「あんたは戦う姫じゃない。(ぬし)様には勝てない。どうする気だ?」

「そんなことない! 負けない!」



 黙ってしまったらいけない気がして、玖は果敢にいい切る。けれど実際どうすればいいのか、考えはまとまっていなかった。

 玖は、武術などからきしだ。たとえいまこの場に剣があったとしても、振れないだろう。見よう見まねで振ろうとしても、基礎のない玖が剣に振り回されるのがオチだ。

 そう考えていると、定孝がさらに言葉の刃を振るってきた。



「役立たず。まだ水仙の姫の方がやる気あったんじゃないのか? ダメだな。こいつらは皆死ぬ。お前が殺した。平和気取りの夢見がちの女は使い物にならない。むしろ邪魔だ。姫ごときが偉そうに。女など、道具に成り下がり、おとなしく主様のいうことを聞いていればよかったんだ。

 上の者が無能だから、下にいる奴も無能なんだな。淡桜も水仙も、この二つの国はもう終わりだ。あの二匹のネズミも、意味がなかったな。ふざけたやつらだったが、頭もおめでたかったとは、つくづく、救いようがない……」



 定孝が長々と語っている間、玖は床を見ていた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ