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五章 三日月の絆 1

お待たせいたしました。


 三階に向かうところで異変は起きた。ふっと、城内の灯りが消えた。



「わわっ!」

「きゃっ!」

「うひゃっ! びっくりした」



 姫たちの声にまじって、後ろからも驚いた声が響いた。

 現在、鈴蘭の城の一番上を目指して進んでいる。道案内を兼ねて惟月(いつき)を先頭にして、康矢(こうや)、姫二人、登流(のぼる(けいと並び、楓牙(ふうが殿(しんがり)をつとめている。惟月と楓牙は淡桜と水仙の両城主の名が出てきたこともあり、信用しても良い条件が揃っていたが、それができるかどうかはまた別だった。

 とくに惟月の人を食ったような態度に、康矢と登流は度々怒りを募らせていた。

 楓牙は戦闘能力が高く、人を恐怖に陥れる威圧感を持っているがなぜか柔らかな人柄の方を優先されていた。惟月は一人でブーイングを上げていたが、その声すら笑っているように聞こえ、康矢は黙り、登流は愛刀を構え続けている。



「今の、最後は渓ですか? 怖いですか?」

「いいえ。だ、大丈夫、です……」



 惟月が振り返って茶化す。気丈に返事をしているようだが、その声は不安そうだ。暗闇が駄目なのかと思いきや、まさかそんなことはないはずである。



「渓、今なにをどう思いましたか?」



 おそらく惟月はニヤけているだろうが、康矢は至って真面目に問う。その空気を感じ取り、登流と姫は黙る。

 一行は階段を上りながら話している。



「何か、おかしい空気です。灯りが消えてから……」



 話をしている途中で空気が揺らぐ。言葉の続きを待つが、渓は次をいわない。それどころか楓牙から声がかかる。



「渓がいません」

「「は?」」

「足を止めます」



 惟月が止まり、姫二人も側近も止まる。そして間にいたはずの渓ではなく、楓牙が立つ。月明かりで確認しても、その姿は見えない。



「階段を上ったら消えてました」

「…………」



 報告として楓牙がいう。他は黙っているが、なにをいえばいいのか分からないでいる。



「康矢、何故渓に問いかけたんですか? 俺は暗闇が苦手かと思ったんですが」



 灯りが消えて驚いて声を上げた。怖いのかと聞いたとき、大丈夫と答えていたはずだ。声は不安そうだったから、強がっている。そう捉えるのが普通かと思った。



「渓はあれでも騎士隊副隊長です。暗闇が怖くては夜の警備など出来ません。それに渓は魔法が使えない分、人一倍勘が鋭い。錫飛(すずひ様や(ひさ姫のそこへの信頼は段違いです」



 長年の信頼は思う以上に強い。おそらく渓は暗くなった事より姫の悲鳴に驚いたのだろう。……それもどうかと思うけれど。



「渓は灯りが消えてから空気がおかしいと思ったのよね? 誰か、他に何か思うところはある?」



 玖の言葉には誰も何も答えない。答えられないのであれば、次だ。進むしかない。



「気をつけて行きましょう」

「ゆっくり進みますから」



 惟月は先程までの歩幅を半分程にして、すぐ後ろに気配があることを確認しながら進む。階段と曲がり角が多いのは、城の壁づたいを歩いているからだ。この方が早く天守に辿り着くという。鈴蘭は不思議な城を作っているが、その全ての理由は祭壇だ。

 一階分の半分にあたる段を上がって、惟月は後ろに声をかける。



「ご無事ですか?」

「玖姫、緋名(ひな)姫、いますね?」

「うん」

「います。登流も?」

「俺はいる。でも楓牙が居ない」

「ひっ……」



 誰かの悲鳴が響いて、また立ち止まって確認する。手を伸ばしても、後ろには誰もいない。



「……登流」

「気配が一瞬で消えるんだ。そう気づいたときにはもう姿がない」



 緊張しているのか、声は硬い。



「玖姫、緋名姫、手を繋いでいてください」

「う、うん」

「登流、裾掴んでていい?」



 惟月の提案に玖が頷き、緋名と手を繋ぐと、緋名はもう片方の手で登流の装束の裾をしっかりと握る。五人の他に気配はない。灯りを持っている者はいないため、暗闇の廊下を明るくするものはない。見張り窓の外から、半分の月ができる限りの光を与えてくれている。それでも、窓の無い部分はほぼ暗闇だ。この状態といえど足を戻すわけにいかない。そろりと歩きながら声を出すことにした。内容はどうしても固くなる。



「……後ろから消えていくんでしょうか?」

「康矢、壁に手をあてて歩いて下さい。取っ掛かりがあれば、その一歩先に階段があるはずで……」

「惟月?」

「きゃあぁっ!!」

「──っ!!?」



 

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