四章 散歩道と雨 14
ここも長いです。
「あのー、いい感じにまとまっている所申し訳ないんですが、そろそろタネ明かしをしていただいてもいいですか?」
空気を読んで黙っていた渓が口を開く。側近二人も同じだろう。スパイ四人も、そろそろ動かなければならない。
「そうですね。分からないことが三つ、四つくらいあります」
教えていただけますよね? と聞く。
惟月も楓牙も頷きつつ、部下たちに新しい指令を出した。
「分かってる。畑は?」
「燃やしました。少なくとも地表は」
「よし、とう……いや、雪は見つけたか?」
「上には居られませんでした。あとは二階と一階と地下の薬室です」
「祭壇付近にも?」
「はい」
「薬室にある必要な資料は持ち出して。二人は雪を見つけて回復。その後は水仙へ行き、錫飛様に渡してください」
「は!」
「かしこまりました。それと残っていた武器です」
部下二人は、今度は扉から出ていった。それを見送り、渓が持ち出せなかった緋名の細剣や登流の刀などをそれぞれ懐に戻す。そして楓牙を先頭にして歩き出す。置いていかれないように康矢と登流が姫二人を挟み、渓と惟月が続く。
「そうだな……どれから話すか……。とりあえずネコ少年と黒マントは兄弟だ」
「えっ!?」
年子か双子かはさておき、黒マント……定孝の方が本来の年だ。推定で二十五歳。ネコ少年も本来は二十五前後だ。楓牙や惟月より年上だ。
「だがあのネコ面、どう見ても十二か十三歳くらいだったぞ? 見た目も言動も」
「でもあの子、私より結構年上っていってたわ。ひょっとして……」
「そうです。ネコさんは毒とも薬ともとれるモノを飲んでいました。いえ、飲まされていました」
「さっきおれたちが話していた薬室。そこで作られているらしい」
「……らしい?」
「おれたちは飲んでないんだ。元々魔法が使える者、強い者、容姿が整っている者なんかはそのまま教育される。どうにも使えない者や強く反抗し続ける者が飲まされるようだ」
結果的に楓牙と惟月、雪は“使える”と判断され、そのまま飲まずに済んだようだ。
「薬を飲んでも身体が拒否すれば、良くて死ねる。悪いと廃人になったり嫌な命令に背けなくなり心だけ死ぬ。成功すれば魔法が使えたり、やたら強くなるみたいだった」
……だった、というところに引っかかりを覚えた。そのまま続きを促すと、顔見知りになった者が一時魔法使いになれたと喜んでいたが、その後姿が見えなくなったという。
「本当に恐ろしい国です。鈴蘭は」
「あぁ。先程燃やしてくれたようだが、煙も危なさそうだからな。今城内でよかった」
「もしかしてその薬……」
「……麻薬ですか」
効果は色々あるらしい。けれど薬室へはネコ少年と定孝、城主しか出入りしていなかったらしく、そこへ潜入は出来なかったという。
「力不足で申し訳ありません」
「謝らないで。無事だった方が嬉しいもの」
「あと、鈴蘭の城主も魔法使いのようです。残念ながら直接見たことは無いのですが、あの兄弟が話すところを聞くとどうやら」
「属性は?」
「すみません。分かりません」
分からないとはどういう意味かと聞けば、炎や土、永を使っている「時期」があったらしく、複数持ちなのかなんなのか。またある時期は全く使わないどころか会話にも出てこなくなるので、さらに謎であるということだ。
一行が着いた部屋は三階の中央に位置する辺り。廊下はひんやりとした空気に包まれていて、なんの音もしない。
「ここは?」
「城主の部屋です」
「ここが!?」
「歴代の城主の部屋は一番上ではなく、城のど真ん中に作られています。自室よりも大切なものが、鈴蘭には存在しています」
「それが祭壇か?」
「はい」
一同は誰もいない空っぽの部屋に入る。目隠しされていなかった玖は、あ! と思い出す。
「私この部屋覚えてる」
「玖姫、ここに来たんですか?」
「うん、雪と。ネコくんに連れられて来たの。城主と定孝がいたわ」
今も明かりを付けているが、あの時はネコ少年の面と城主の見た目にばかり目をやってしまったので、部屋の中などろくに覚えてはいない。
「手掛かりはない、か。すみません、皆さん。上へ行きましょう。おそらく城主と定孝は祭壇にいるはずです」
棚や引き出しを物取りのように荒らしてから惟月はいう。私室に手がかりになりそうな書類がなければ、あるのは上の祭壇か下の薬室。楓牙を先頭にして出ようとしたとき、玖の足が止まる。
「ねぇ、私たち今どっちから入ってきた?」
つい先程のことなのに、何を聞く? と思いつつ、扉を前にして康矢が答える。
「向かって左から入ってきましたね」
「このあとどっちへ行くの?」
「左に進んで真っ直ぐです。階段がありますのでそれを使います」
静かに、今度は惟月が答えた。それを聞いた玖はまた考えている。何が疑問なのかと思いつつ、口を挟まずにいると玖は楓牙を見ながら口を開く。
「あの時私はネコくんに連れられて左に曲がって階段を上ったわ。でも雪は定孝に連れられて右へ進んだの。あっちには何があるの?」
二階のあの部屋には雪が眠っていた。どう進んでも繋がっているのなら大したことではないけれど、なぜか違和感が残っていた。玖のその違和感は、楓牙と惟月に伝わる。
「楓牙、右へ行くと何があるか知ってますか?」
「いや……知らない。だが薬室へ直行出来るとしたら、かなり厄介だ」
その一言が五人を凍らせる。
「雪が危ない!?」
「落ち着いてください! まだそうと決まったわけではありません!!」
玖と緋名は慌てるも、平静を装っている惟月に止められる。姫はすぐにでも下へ行こうとするが、そこは考えなくてはならない。
「待ってください。下には部下二人が向かっています。彼らは信用できます!」
「急いで上へ行く必要があるのか?」
まだなにか隠しているのか? と質問を重ねれば、楓牙と惟月は顔を見合わせている。しかしいわないわけにはいかないと、重い口を開く。
「今夜の戦いで、兵が大勢死んだ。死んだ者の首を祭壇に捧げるという儀式があるんだ。多分、このあとあの二人はそれをやる」
「……やると、どうなる?」
「鈴蘭の大地が全面汚れます」
「「!!」」
「負の力と血が大地を汚して、おそらくですが、鈴蘭は呪われた土地になってしまいます。一刻も早く止めないと……!」
「それは、まずいですね」
鈴蘭の大地が汚れれば、淡桜も水仙も逃げ場がなくなる。トスリコ大陸の下半分が汚れてしまうと、上半分も海もどうなるか分からない。思った以上に深刻で大変なことだった。
「これが僕たちの仕事なんですか……」
何という重い仕事だ、とついうっかりボヤいてしまったが、多分みんな同じ気持ちだろう。
けれどやるしかない。仕事だろうが運命だろうが、やらなければ帰る場所もない。
戦う相手は城主と定孝。まずはこの二人を止める。そのためには上へ行く道を進んだ。
これにて四章は終わりです。
予定外に話が重くなったのでもしかしたら章が増えるかもしれません。




