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四章 散歩道と雨 12

 康矢の中では一つの謎がある。



「ところでお二人のご出身は? 惟月殿は淡桜ですか? 楓牙殿が水仙??」

「あ」



 そういえば聞いてない! というように、登流も渓も様子をうかがうが、当人たちは顔を合わせて言葉を濁している。



「あ、ってなんだ?」

「小さい頃だったから忘れちゃったとか? 玖は覚えてる?」

「ううん。ごめん。いつも二人とも一緒だったような気もする」



 姫たちは覚えておらず、康矢たち三人は味方だったことをさっき知った。しかし未だに二人は腕を組んで考えている。



「出身地を忘れるか? 普通……」

「おれたち普通じゃなかったからな」

「出身地を言葉にしたら自分も養い親も死んでたからね。そのあたりは厳しかったよ」



 軽くいうがその内容は酷なものだ。つい五人は口を閉じる。口にしていい話題ではなかったかもしれない。戦いを終えて屋敷に帰れば、城主が知っていることだったろうと思う。



「そんな、皆さん気にしないでください。俺たちはそんなの気にしてませんよ」

「そうだな。どちらも大切な故郷だ」



 確かに、誰もがもう一つの国が第二の故郷といっても過言ではないだろう。

 それぞれがうんうんとうなずく中、渓が手を上げて発言する。



「雪さんを取り戻して、鈴蘭の城主を捕らえ、残りの住民は解放する。みんな揃って家に帰って馬鹿騒ぎする。という事でいいんですね?」



 ずっと何もいわず、聞き役に徹していた渓が、顔を上げてはっきりと告げる。すると囲っていた残りの六人がいっせいに渓を見る。



「渓がまとめた! 成長したなぁ」



 登流がしみじみいうと、周りの面々も頷く。まるで皆がそう思っていたようだ。



「…………はい」

「では、そろそろ行きましょうか」



 康矢の言葉で全員が立ち上がり、最終決戦に臨むため、再び城に入る。


 二人の姫を真ん中に据え、先頭は康矢と登流。姫の後ろに惟月、楓牙と渓が最後に位置付けられる。



「雪は絶対に助ける!」

「まさに捕らわれのお姫様ですね。あ、でも雪は騎士様でしたね」



 玖がみんなに聞こえるようにいうと、まさかの緋名から冗談が聞こえた。



「そこは姫でいいんじゃないですか?」



 間髪入れずに惟月からのヤジが飛ぶ。少しでも恐怖や不安を消そうという心遣いからか、康矢も参加する。



「捕らわれの、というところがすでに怪しいですねぇ」

「え? じゃあ居残り?」

「居残りの姫、じゃ、単に婚期逃しちゃったみたいじゃんか」



 緋名がいい直すと、今度は登流が話に乗ってくる。しかしいってる内容はひどい。みんな桐雪に謝らないとなぁと楓牙が考えていると、まさかの声が聞こえた。



「雪は私のだから! お嫁にいくなら相手がちゃんとした人か、審査するもん!」

「「は?」」



 一言一句よく理解できない内容だった。……はずだった。



「姫である玖がじきじきにチェックするの?」



 どうやら緋名には理解できたようである。



「ちゃんとした人じゃないと認めないもん」

「あんたお母さんか?」

「登流……同意しますけど口調が……」



 玖と緋名が盛り上がっているのかボケているのかは分からないが、登流と康矢のツッコミが追いつかなくなってゆく。けれど玖は気づかないように見える。



「雪は絶対に幸せになる子なんだから、それ相応の人じゃなきゃ駄目なのよ!」

「……子って……」

「雪のほうが年上ですよ」



 ちょいちょい入るツッコミまで聞きながら、ふと惟月がストップをかけるつもりで声をかける。



「玖姫様は部下想いの方ですね」

「渓の相手も探すんですか?」



 部下、ということだけを考えて康矢が付け加えると、玖は即答した。



「それはレイルに任せるかな」

「絶対に嫌です!! 玖姫、見捨てないでください!!」



 隣を歩く楓牙がピクリと肩を動かしてしまうほど大きな声でさらに早口だった。



「レイル……? レイルってたしか」

「女性でありながら騎士隊長をつとめる方です」



 緋名と登流が頭に思い浮かべていると、康矢が情報を付け加える。渓は一人涙目だった。



「隊長とは仕事ならともかく、私生活は合わないです。絶対」

「まぁ……面白い人なんですけどね」

「そんなに嫌なん?」

「魔法使いでもありますよ。剣も素晴らしいですが」

「すごい! 話してみたい!」



 康矢が少し遠くを見ていたから、登流が静かに聞くが、その応えに緋名が食いついた。



「話そうよ。レイルは南から来た子なんだけど、楽しい子だよ。父さま付きだから忙しいけど」

「南か……だから名前が」

「隊長は考え方もだいぶ違うんですよ」

「レイルは女性大好きで、男性にはかなり厳しいです」

「……へぇ」

「……私にも厳しいんですよ」

「…………」



 神秘の南、パクリュ大陸出身のレイル隊長は、雪と同じ十九歳で渓や姫たち、さらに康矢と登流より年上だった。

 二国城主の奥方が旅をしているときに出会ったらしく、帰還したときに一緒に連れ帰ったのが彼女だった。詳しくは康矢も聞いていないが、仕事に支障が出ていないため問い詰めてはいない。

 そう。今このときまではなんの問題もなかったのである。



「三人でお茶会とかしたいね! きっと緋名はレイルに気に入ってもらえると思うんだよね」



 玖が発言し緋名も笑顔になると同時に、康矢と登流と渓がピリッとした。きっと通じ合っている。



((茶会は阻止しよう!!))


「さ、雪を探そうかね」

「楓牙殿と惟月殿はどこにいると思いますか?」



 黙って聞いていたが名指しされたため、楓牙は苦笑いで答える。



「とりあえず呼び捨てにしてくれ。おれたちの部下が戻っていると思うから、一度行きたい場所がある」

「そうですね。話し方のクセはともかく、名は呼び捨てでいいです。こちらもそうします。場所は二階なので、登流、場所変わってください」



 惟月と登流の立ち位置が変わり、一行は二階角のとある部屋に向かう。

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