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四章 散歩道と雨 10


「あれ? 渓が起きてる」

「もう元気なの?」



 自分の元にみんなが集まって来る光景が信じられず、渓は目を見張る。



「気付いて、いたんですか?」



 しかし持っていたかった淡い期待はあっさりと壊される。



「気づいてましたよ? スルーしてただけで」

「そっとしておいたほうが良かったろ?」



 なぜこの二人に聞いてしまったかは謎だが、惟月と登流の前で、渓は大きく肩を落として願いを込める。



「……だったらスルーしてたことも、そっとしておいてほしかったな…」



 だが当然のように、渓の言葉はダメ出しされる。



「惟月と登流にそういうことを望むのは違うだろ」

「そうですね。特に惟月殿は」

「…………」

「ほら、やっぱり惟月は」



 渓が黙っている横で、康矢と楓牙がそろって声を上げた。惟月に関してはこの二人、息がぴったりだ。



「さっきから二人とも、ひどくない? 雷落とすよ?」

「惟月さんのほうがひどいこといってますよ!?」

「なんだって?」

「なんでもないです」

「…………弱いな……」



 あっさりと最悪手段を出され、渓も逃げると、登流がポツリと呟いた。



「さ、それはその辺にして。そろそろ真面目に作戦を考えましょうか」



 康矢が仕切りなおすと、玖も緋名も近くによって来る。

 円陣を組むように、玖と緋名を中心として両隣に康矢と登流。それを囲むように三人が座り直す。

 誰と誰が組むのが効率がよいか、雪の救出をどのタイミングで行うのかを決めていく。一般兵士はともかく、幹部の位についているものはもう定孝と城主しか居ないらしい。



「じゃあ、康矢と惟月があの黒マントと魔法対決をするのね…」

「それしかないでしょう。我々が適任です」

「久々に全力!!」



 淡々と語る康矢のとなりで、惟月は腕を振ってみせた。



「…………」



 いつかどこかで、誰かがいっていたセリフを聞いて、康矢と渓、登流が黙る。それを知っているのか知らないのか、惟月の表情は晴れていた。

 その四人の心情を知らずに、おずおずと、玖が胸の前で両手をあわせて小さな声で頼む。



「あのね、甘えてるかもしれないんだけど、でも……出来れば」

「殺さないように、でしょう?」



 康矢が、いいよどんだ玖の言葉を先回りして発した。

 玖が目を丸くして康矢を見ると、彼は笑っている。となりにいる渓も、にこりと笑っている。



「ネコ少年の名前が気になるんですよね。我々も知らないですし」

「戦いで殺してしまえば、やっていることは鈴蘭と同じです」



 この二人は助かることに、玖の気持ちを察してくれる。もちろん、本当に危ないことやダメなことは聞いてくれないだろうが、大抵のことなら話し合って、それに近いところまでやろうとしてくれる。

 しかし登流と惟月は、そこまでお人好しではない。主人のやりたいことは尊重したいが、それで主人を危険な目に遭わせることは、絶対にしない。玖の主従とは、また違ったやり方だ。



「殺さずにどうする? 野放しにするつもりか?」

「捕虜とか?」

「あんな奴、必要いらないだろうが」



 二人は次々に口を開く。自分達の姫が危険な目にあったのだ。当然、滅したいだろう。

 しかし玖はそれを固い表情で聞いている。



「玖姫はどうしたいのですか? 先ほども殺さないといい張っておられましたが」



 そう、楓牙に問われ、玖はしっかりと目の前を見つめていう。



「鈴蘭を、解放したいの」



 康矢と楓牙はその言葉にうなずき、渓もしっかりと玖を見つめる。登流と惟月は言葉を返せなかった。

 ただ一人、緋名は一瞬ハッと目を見張ったものの、登流と惟月の真正面に立ち、しっかりと、ゆっくり言葉を吐き出した。



「脅威を排除したいのは、わたしも一緒だった。たぶん、父上もそうだと思う。でも今の玖姫の言葉を聞いて思ったの。それじゃ争いは終わらない」

「こちらが、折れるということですか?」



 登流が返した言葉には、玖も応じる。



「私は彼らに、自由をあげたいの」

「罰を与えなきゃいけないのは、鈴蘭の城主だよ、登流!」

「それこそ、最終的には、自国の王様たちに決めていただければいいんじゃないですか?」



 二人の姫がいうと、楓牙が冷静におさえる。しかし、よく考えてみる。



「殺さずに捕らえ、指示を仰ぐのか…?」

「難しいことあっさりいうな」



 誰も口にしなかったことを、惟月と登流があっさりといってしまう。


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