四章 散歩道と雨 9
そんなニ人の様子をこっそり見た渓は、あることに気付いて知らせる。
「緋名姫、もしかしたら、魔法使いになれるかもしれませんよ?」
「え! 本当?」
「いえ、もしかしたら、です」
「渓、それはいつもの勘ですか?」
予想外のことを知らされ、緋名のテンションが上がった。が、あまりにも食い付きがよすぎて逆に渓をビックリさせる。
「渓の勘て当たるんだよね。雪のときもそうだったし」
康矢も玖も同意したことによって、他のものたちも驚いて緋名を見る。一同を見渡した渓は、にこりと笑って緋名に告げる。
「すべてが終わったら、検査をお願いしてみましょうか?」
「おい……」
あまりにもきれいに笑っているため、登流が警戒した。緋名の前に腕を出し、庇うそぶりをみせた。
「検査、ですか?」
当人である緋名も、つられるように一歩下がる。
「適性検査。大丈夫、怖いことないよ」
警戒を解くように玖が笑うと、後ろからももう一人。
「私も雪も、こういってる渓もやってますから」
「……城主様との、あれですよね。なにも痛くないし、怖くないです」
康矢の言葉のあとから、弱々しく渓の言葉が続いた。
それはさすがの登流もキツネ状態で首をかしげる。
「え? 魔法使えるの?」
「お? 初耳」
登流と楓牙が同時にツッコミを入れると、渓は黙って後ろを向いた。そのしぐさで全員に伝わり、いっせいに会話を戻した。
「検査で陽性であると、一緒に属性も分かります」
「緋名のはなんだろうね。バランスだけで考えたら、火とか土とか欲しいよね」
康矢の説明に、玖が欲望を出す。が、すぐに変な方向へ話が進む。
「緋名姫が魔法を覚えたら、姫 vs 登流で勝負か?」
「魔法 vs お面……お面が勝ったらすごいですね。緋名姫の属性が光だったら、消滅させられてしまいますけど」
楓牙と惟月が思ったことをそのまま口にする。
「やめてください惟月殿……。でも登流は魔法に強くなれそうですね」
現実のことを考えてか、康矢が口に出すが、隣にいる緋名はびくつきながら質問をする。
「し、消滅って、なんですか?」
「お面が消えるってことですよ」
「!! 覚えたい!!」
「………………」
気合いを入れる緋名と、黙りこくった登流の温度差はかなりありそうだ。
「ん? お怒り?」
「ひぇ……」
マイペースに状況を見守る惟月に対し、緋名は肩を震わせる。本当に怒っているようなら、今からでも取り消さないとあとが怖い。
しかしキツネからおかめに替えると、否定の言葉を発した。
「…………いや」
それを聞いた康矢が、惟月と緋名の後ろでクスリと笑った。それに気づいているのかいないのか、登流は続ける。
「回復とかの魔法なら、覚えて損はしないかと思って」
「緋名姫の身を案じてですね」
とても小さな声で、言葉の裏に隠された本音を康矢が告げるも、それに答える声はない。分かっていない姫はともかく。
「…………味方に回復役がいるなら、それはそれで助かる」
「まぁそうだよな。大ケガすることはないってことだし」
おかめでボソボソと告げる登流に同意して、楓牙も安心するようにいうと、緋名はしっかりと背筋を伸ばしていい切った。
「頑張る! わたし魔法覚える!!」
緋名と登流、康矢の三人から一歩離れて、スパイだった二人は小声でやり取りする。
「坊主より仮面のほうがよっぽど策士じゃん?」
「……否定はしきれないが、結局似た者同士だろ、あの二人」
「どこのお姫様も、単純で純粋ってことですか?」
通常どおりにもう一人がそれに参加する。そしてそれを待っていたかのように、続々と集まってくる。
「あ、復活した」
「いうじゃねーかこいつ」
「でも、それこそ否定できませんね」
「……康矢殿はどこから聞いていたの?」
キョロキョロと、決して目を合わせずに楓牙が聞くが、康矢はにこりとした笑みを返すだけだった。そうこうしているうちに、姫たちも戻ってくる。




