四章 散歩道と雨 7
登流は呆気にとられたままの緋名の元に跪き、しっかりと見上げていう。
「申し訳ありません。緋名姫。お怪我はひどくありませんか?」
「……うん、大丈夫。今も、さっきも、助けてくれてありがとう、登流」
「いいえ、ご無事で、何よりです」
二人のやりとりを見て、ようやく玖も腰から手を離す。
その後ろに固まっていた三人は、まじまじと姫と忍者のやりとりを盗み見ていた。
「珍しいもの見た」
「登流が緋名姫に敬語使ってるところ、ひっさびさにみたわ。ここのところそういう報告無かったしな」
「……登流さん、素顔カッコイイじゃないですか。なんでお面してるんでしょう?」
「渓くん気を付けた方がいいよ? 登流殿の素顔を見続けていると、今日の夜、夢枕に般若が…」
「それはウソですよね?」
「いえばやってくれるんじゃないか?」
「けっこうです遠慮します絶対嫌です」
意外と仲良しな三人のコントを無視して、玖は惟月に雷の礼をのべる。
「惟月ありがとう。緋名たちを助けてくれて」
「いいえ、玖姫。お役にたててなによりですよ」
そしてまたトコトコと、康矢の近くへ戻り、緋名の腕の具合を聞く。
「緋名、腕は?」
「大丈夫。ごめんなさい、玖。わたし、役に立てなくて……」
「そんなことないってば! 緋名がかばってくれなかったら、私いま立っていられなかったかもしれないんだもん。私こそ足を引っ張ってばかりで」
「姫様方のせいじゃありません。もとはといえば、姫たちから目を離した我々が悪いのです」
「……そうですね、登流のいうとおりです。玖姫、緋名姫、申し訳ありません。本当にご無事でよかった」
二人の姫の謝罪大会が始まりそうだったが、そこに登流まで入ってしまったので、康矢も参加せざるを得なくなった。思った以上に、玖の喝は効果があるようだ。
二人の側近が頭を下げてきたので、逆に姫たちは恐縮した。いつもと違う感じで、調子が狂う。
「それに楓牙と惟月も。予定していた場面ではないでしょう? このあとの作戦に、支障は出ない?」
緋名の言葉に二人は笑う。
「気にしなくて大丈夫ですよ。桐雪を助け出したら終わりにする予定でしたから」
「残りは終わってます。俺たちの部下も、一度町に戻らせてます。民たちを避難させなくてはなりません」
「……そういえば、お二人はどうやって逃げてきたんですか?」
頭をあげた康矢の問いに、緋名は顔を曇らせた。なにか、まずいことでも聞いてしまったのかと思うと、玖が袖を握ってきた。
「雪が、助けてくれたの。……康矢、雪が、ここに残るって。だから逃げろって……ねえ私!」
「行きましょうかね」
「……え?」
突然いった康矢の顔は笑っている。味方がほしくて後ろを見ると、後ろの三人も笑っている。登流はおかめの面をつけていた。
不安な顔をしているのは、自分以外に緋名しかいない。
「……登流?」
「自己犠牲は好みじゃないんだ。俺はそんなのまっぴらだ」
「!!」
なんでこの流れで分からない? というように、肩を竦められた。
「はぁ。雪にも喝を入れるのですか」
「康矢さんまで怖い。……僕は雪さんにいいたいことがあるので」
「俺はきっちり女装していただいて、楓牙の隣に立たせてみたいんです」
「女装っていうと、さすがに雪も怒ります」
「えー? じゃあ康矢くんはいつもなんていってるのさ?」
「えっと……お役目?」
「似たようなものじゃん」
「ってか忘れるな。お前たち二人はとりあえず後だ。後」
「そうですね。姫たちの言葉を信じたいので諸々は鈴蘭が終わってからにしましょう」
「……康矢さん、鈴蘭が終わるというのは物理的にですか?」
不安げな姫の前で、五人はあっさりと行くといっている。康矢も登流も渓も、楓牙と惟月をとりあえず仲間としてくれたようなので、姫二人は安心できた。
「変な心配するな、ヒナ。あいつもちゃんと仲間なんだろう」
「だからそういうことをおかめ殿がいうと、変な感じになっちゃうんですよ?」
「…………」
なんか変なところがあったら教えてくださると助かります。




