三章 朧月夜に龍 13
城内のとある一室。
惟月と楓牙は深手を追ったネコ少年を連れてきた。少年は気を失っていて、瞳は固く閉じられている。右肘は止血だけはしてある。が、出血量が多いため、無事に目を覚ますかは、二人には分からなかった。
「この先どうなると思います?」
「城主様は、どうお考えなんだろうな」
素顔のネコ少年を見下ろす形で、二人は話を続ける。
「兵士はもう残っていない。あとは城主様と、二人と俺ら……」
「淡桜から二人、水仙から一人、他に騎士たちが大勢来てるみたいだけど、気づかれていらっしゃるのか?」
「しっ!!」
二人が会話を止めてから十秒ほどで、少年のまぶたが微かに動く。
気がついてからは早い。ぱっと飛び起きたネコ少年は、二人を見て状況を把握した。
「目覚めてよかった。包帯を替えます」
命は助かったのに、惟月を見て心底嫌そうな顔をしている。
「いいよ、離しなよ……ってかなんで……ボクは命令してないよ……」
「あんなところであんなやつに殺されてもこちらが困ります」
替えているのは楓牙なので、手は振り払わない。惟月はいつも通り、そのまま話を進めた。
「我々は桜の二人を捕らえに行きますが、あなたはどうされますか?」
「桜の二人? なにそれ、誰の指示?」
「指示は受けておりません」
すこし考えるような素振りを見せ、ネコ少年はニヤリと笑い命令を下す。
「ふぅん。じゃあ姫二人、事故に見せかけて殺してこい」
「…………」
「……よろしいので?」
「かまうもんか。首は台座に置いて、身体だけ国に帰してやればいい」
楓牙も惟月も、わずかに動揺する。けれど惟月はそれを悟られないようにごまかしていた。だが楓牙は視線を落としたまま。ネコ少年はめざとくそこに疑問をもつ。
「…………」
「なに? 文句でもあるの?」
「…………いえ」
「女性を手に掛けるのを気にしているのでしょう」
「…………へぇ」
楓牙の弱点? とでもいうように、ネコ少年は顔をのぞき込む。が、仲間の心をのぞき見ても楽しくはないので、すぐに顔を引っ込めた。どうせそこらの兵士と同じなんだろう。
「……弱すぎるものには、手を出しづらく…」
「なんならあの仮面の忍者の前で首を飛ばしてもいいし……って、あいつ生きてんの?」
「吹っ飛ばしはしましたが、確認はとれませんでした」
包帯を替え終えた楓牙は少年から距離を取り、惟月の横に並んで跪く。
「あっそ……まぁいい。ボクも出るから、キミらより先に見つけたら、ボクが殺しておくよ」
まさか確認してないなんてなぁ、と小さく呟いているが、部下からの報告をあまり真面目に聞いていないのはいつものことだ。
任務ごとに毎回変わる使えない兵士の言葉より、自分の目で確認した方が何倍も正確だ。
一般の兵士より、彼らは数倍も役に立っているが、生真面目なやつと道化師のようなやつだ。どのような経緯で上り詰めたのかは聞いてないが、こちらも話したくはない。聞かないのが一番楽だ。どうせ自分達も彼らも、鈴蘭の駒だ。使い捨てられるのだから、任務以外の話など必要ない。
それに今回の任務はかなりの大事。下手すれば、この二人と会うのはこの場で最後だ。
「じゃ、ボクは生き残るけど君たちはどうなるかね? 失敗したらちゃんと死ぬんだよ?」
「…………」
二人は黙って頭を下げる。それを目の端でなんとなく見たあと、少年は扉を開けて暗闇の廊下へと消えていった。
「…………行こうか」
「……はい。彼らより先に見つけられると良いですね」
二人は己の武器を確認したあと、少年とは別の扉から出ていった。




