三章 朧月夜に龍 11
登流がネコ少年と対峙しているころ、脱出した康矢と渓は、外にいた。そこは城の死角になるところで、目の前は行き止まりの塀。建物に窓は見当たらないところだった。実際、地図を凝視してくまなく探さないと、この場所は見つからない。鈴蘭の兵士のほとんどは気づいていないだろう。二人が見つけたのも、偶然だった。
「外に出てきましたけど、これからどうするんですか? といいますか、登流さんのアレ、なんですか?」
渓は壁に背中をつけ、もし兵士に見つかっても、すぐに応戦できるように利き手に刀を持っている。質問を投げられた康矢は、しゃがんで地図に目を落としていた。
「登流が本気で戦うときのお面がアレだ。対多人数のとき、ただひたすら叩き潰すときのもので。姫には内緒にしていたようなので、あそこで出してくるのは予想外だったけど」
「……ブチギレていたってことですか?」
「見も蓋もなく言ってしまえばそう」
アレで向かってこられると本当に怖いと、さも経験したように康矢は告げた。ん? と思い、渓が続きを待つと、苦笑しながら康矢は顔を上げた。
「稽古中のときに見たことがあるんです。武器は木刀でしたし、死にはしないけれど、まず顔の見えない相手なんて怖すぎだった。完全に怪談話です」
康矢にここまで言わせるのならば、怖いもの見たさの感情など発動しない。
「もう少ししてから様子を見に戻りますか?」
「いや、あちらは任せて、姫と雪を探しましょう」
そして二人で地図に目を落とす。はじめに地下へ連れていかれたらしいので、今度は別の場所だと踏んでいるのだが、さっぱり分からない。
「そういえばあの黒い二人、あの先にあるもの、喋っちゃえばよかったのに……」
「あれは怪しかった」
「何があるんですかね?」
「……城主の部屋ではなさそうだった」
「姫様か、いえ、そんな感じではなかったです」
「渓の勘は頼りにしてますよ」
相手が渓だから、康矢も敬語を砕いて話していた。けれどふと、気配が動いた。
「!? 誰だっ!」
顔と腰を上げ、短剣を抜こうと構えたが、肩の力は抜ける。
「康矢様! 副隊長!」
淡桜の高台にて、伝令役をしてくれた騎士が、周りを気にしながら走ってくる。置いてきた騎士たちが、いまようやく揃うかと思ったけれど、それだけではなく、思わぬことも教えてくれた。
「お待たせ致しました。ようやく鈴蘭に足を踏み入れたのですが、鈴蘭には一般の兵士がいません。まだ隠れているのか、城内は分かりませんが、庭などには誰も居なくて、我々も水仙も困惑しています」
「兵士がいない!?」
「警備が心配になるレベルです」




