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三章 朧月夜に龍 10


「……お前はここで、俺が倒す。一人で死んどけ」

「ボクを倒してお姫さまのところに行くんでしょ? 待ってるって、言ってたもんね。行かなくちゃねぇ」



 確かにこいつは、心を読めるのかもしれない。けれど今、登流は無心で戦っている。なにも考えていないのだ。だから、気にしても仕方ない。

 しかし、本当に心が読めるなど、信じがたい。何か仕掛けがありそうだ。あとで康矢に聞いてみるか。と、そんなことを考えていた。

 だから、少年の顔が歪んでいることに気づかなかった。


 実際、相対しているのが、惟月か楓牙だったならば、カラクリが分かったかもしれない。少年には秘密があり、他国の者たちはもちろん、一部を除く鈴蘭の者たちには知られていないはずなのだ。たとえ少年の表情に登流が気づいても、訝しげに思ってもそれ以上は分からないし、おそらく気にしないだろう。だけどそれは、少年にとっては禁忌であり、トラウマなのだ。



「決めたよ。残念だけどキミはここで殺す。でも欲しかったのは本当だよ」



 そして少年は壁の一部分を叩く。隠されていた扉を開けば、そこには長物が掛かっていた。槍や薙刀の様なものもある。少年が手に取ったのは、少年の身長とほぼ同じ長さの刀だった。

 少年は勢いをつけて鞘を投げる。刀を抜くというよりは、投げ捨てるという方が正しそうだ。


 少年と登流、そして見物の惟月と楓牙の四人。惟月と楓牙は壁に背をつけるまで下がり、気配を消す。どさくさに紛れて殺されないためだ。

 登流は、乾いた音だけで少年の武器が長刀と判断し、腰を落として刀を構えた。そして一気に間合いを詰める。

 左から攻撃がくるが、避けることなく刀でおさえる。惟月と戦ったときより重く、勢いをなんとか殺し、返してその先に入る。するとすぐに次の攻撃が来る。重いのに速い。間合いを詰めたいけれど、そう簡単には詰められない。



「……ホントに無心なんだね。あー、やりにくいなぁ」



 ポツリとぼやく少年。兵士などとは比べ物にならない。惟月といい勝負か、あるいは。

 それでも、登流は勝たなければいけない。助けたい者たちがいる。仮面の上で心を読むなら、対策など考えられない。考えてしまったら、そこで止まってしまう。だから身体が動くままに、いつも通りに気配だけを追って、攻撃を繰り出していく。


 登流は知るよしもないが、少年の表情は次第に雲ってゆく。黒ずくめの二人は、口も手も出さないが、眉間に皺を作り出す。少年の意識は二人に向いていないが、もし向いてしまえば命に関わっただろう。この二人も、主人からの命令があるので、無残に死ぬことはできない。見殺しになどできないが、手や口を出したら自分達の身が危ない。さてどうするかと、二人は視線だけで会話し始めていた。



(どうする?)

(でも邪魔したら命無いですよ)

(いっそのこと次の段階いくか?)



 そんなことをもちろん知らない登流は、先程よりもっと腰を落として、一気に駆けた。少年の刀が首を狙うように横から来るが、登流はそれを避けることなく脇差しの刃と腕で押さえ、火花を散らしながら走る。そして少年の目の前まで詰めると、構え直す時間を与えず、相手の鍔を刀の頭で強く叩く。一切手加減をせず、ちからいっぱい。そして少年が返せず体勢を崩したところで、そのひじを切り落とした。



「あああああっ!!!」



 キィィンっ!!! と、カン高い音がした。



「っ!!」




 少しの間、静かだった。次の攻撃が来ると警戒しても、なんの気配もない。ネコ少年の次は黒ずくめの二人。連戦はキツイが、弱音など吐いていられない。


 しかし仮面を外して辺りを見渡すと、生きている三人の姿はない。あるのは命のない、兵士たちの残骸。どうやらネコ少年は二人が連れていったようだ。

 刀をつかんでいる腕は、無残のまま置いてあった。回復するつもりがないのか、惟月と楓牙が拒んだのかは分からない。

 手傷は負わせた。登流自身、左腕が血に染まっていたが、幸い動かないわけではない。早く、康矢たちと合流して、姫たちの元へ行かなければと、疲れきった身体を動かして、その場を後にした。


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