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三章 朧月夜に龍 9


 見た目はふざけた少年だが、彼はれっきとした幹部。上司だ。兵士たちは虚ろなまま、自らの首を、持っていた武器でかっ斬ってその生を終えた。刀で躊躇した者たちは、康矢の開けた穴から飛び降りていった。命令に背くものは一人もいなかった。


 ドサドサと兵士たちは倒れていく。立っているのは四人。のっぺらぼうとネコ。そして黒ずくめの二人。



「キミたちも下がってていーよ。てか何で残ったの? 邪魔するつもり?」

「城主様より、三人を捕らえろと命を受けています」

「誓って、邪魔はしません。倒れたそれを、運びます」



 二人の答えに、少年はまぁ生きてたらね、と返して、それきり二人を見ない。まっすぐに前を見る。

 しんっと、部屋が静かになる。前が見えているのかいないのか、よく分からないのっぺらぼうの仮面の男は、最初に奪った刀一振りで戦い続けていた。



「ねえ、見えてる? 聞こえてる?」

「………」

「じゃあ、見えてないけど聞こえてるとして話すね。キミさ、こっち側に来なよ。殿様にはボクから説明するから」

「………」



 登流は微動だにしなかったが、捕らえろと言われている二人も動かなかった。



「もしあの戦うお姫さまが気に入っているなら、捕虜とかにし……」



 そこまで言いかけたところで、登流は動く。まるで見えているかのように、ネコ少年の首筋目掛けて刀を振り下ろす。少年は登流が動いた瞬間に後ろへ跳んでかわそうとしたが、その間すら、一気に縮めてきた。



「うわっ! びっくりした。あれ? 怒った?」

「………」



 登流は少年の声には答えない。もしかしてなにも聞こえないのに斬りかかってきたのか? だとすればやはりイイ。鈴蘭に欲しい。あんな、魔法だけの出来の悪い弟に比べたら、変わり者でもこっちの仮面の方がいい。

 少年はネコの仮面をひっぺがし、その辺に投げ捨てる。そしてやはり幼い素顔で、ニィッと笑った。


 実際、登流の視覚は遮られているが、聴覚はなにも変わっていない。いつもの通り、音も聞こえるし、気配も読める。

 単に、話したくなかっただけだ。

 少年の腕が立つのは、感じ取れるほど。あの口調と、緋名を侮辱したことが許せなかった。そんなやつと口など利きたくないと思っていた。



(こいつは野放しには出来ない。殺さねば……)


「殺さねばヒナ姫が危険な目に遭う。とか思ってるの? まぁあってるけど、ボクたちが本当に殺しておきたいのは、淡桜の方なんだけどね」

「………」

「うーん? なんでヒサ姫をって? それはまだヒミツ。キミがこっちに来れば教えてあげてもいいけど、殿様はあのお姫さまをお嫁さんにしたがってるんだよね。出来れば阻止したいんだけどさ」

「………なぜ?」

「あ、出るじゃん、声。聞こえてるんだよね。顔に書いてあるよ?」



 否。今付けている仮面は、のっぺらぼうだ。無心に敵を倒す時にしかつけない。緋名にも渓にも、隠していた仮面。唯一康矢だけは見られているから、今の渓には伝わっているだろうが、表情が出ているはずがない。……とすると。



「そう。ボクは人の心が読めるんだ。短時間だし、一人だけでネコやってるときはしないけど、取っちゃえば大体分かるよ」


(なんてやつ……)



 しかし、どのみち緋名にも玖姫にも害をなすなら、ここで終わらせてしまわないと残った意味がない。仮に自分に倒せなくても、傷を負わせておけば康矢か渓が倒してくれる………と、そこまで考えて、登流は首を振る。



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