三章 朧月夜に龍 8
「危ないな、水仙。本当にあれは読めない」
「お褒めに預り光栄です」
城主の皮肉に負けじと、緋名は棒読みで言い返す。今この状態でも、桐雪は城主を倒す気は無いようだ。この様子を見て、玖は確信をした。
「一つ聞きたいんですけど」
「なにかな? 桜の姫よ」
玖は桐雪を指差して城主へ質問する。
「雪の中身、誰? もしかしてさっきのマントの人?」
緋名も、城主も、指差された桐雪でさえ、一瞬止まる。だが、それも一瞬だ。
「はははっ! この姫、気づいてたのか!!」
突然笑いだした偽桐雪に、緋名はビックリして一歩離れた。城主はそんな二人の姫を、目を細くして見ていた。
「どこで気づいた? へましたつもりはないんだが?」
ニヤニヤと笑いながら、偽桐雪は緋名の腕を掴み、自分の近くに戻す。
「きゃっ!」
「逃げないから緋名を離して」
「はいはい。で? どこで気づいたんだ?」
あっさり緋名の腕を離すと、玖に詰め寄る。気になって仕方がないようだ。玖はそれこそなんとも思わずに、問いかけに答える。
「雪は永の魔法を使えないわ。それに私が彼のことを雪と呼んでいる間は、自分のことをぼくなんて言わない。私はいつでもどこでも、彼のことを桐雪とは呼ばない。彼は雪よ」
そのようなことで見抜いたのか。にわかには信じられないが、淡桜の姫はまだ未知だ。調査はしていても、全貌が分からない。
「雪なら、きっと自分の命を投げてでも、玖を救うと思う」
「あ、緋名。それはダメなの」
緋名が思ったことを口にすると、まさかの玖から訂正が入る。
「雪には、どんなときでも自分の命を投げ出さないように、誓約させてるから」
「……腰抜けだな」
笑いながら言う偽桐雪を、玖は睨み付ける。
「貴方たちが言ったんじゃない。考え方の違いよ。私を庇って味方が死んでも、私は笑ってその先を過ごせないし、そのあとずっと後悔するもの」
「うん。そうね。わたしも絶対にイヤ。登流や康矢くん、渓も犠牲になったら、わたしは笑顔で生き抜くこと出来ない。やっぱりみんなで笑っていないと、ダメだよね」
「ね! 緋名もそう言うと思った!」
笑顔を見せる姫二人に対し、鈴蘭の二人は苦いものを噛んだような顔をしていた。
「主人のために死ねるならば、本望だ」
「その通り。部下の命など、捨てるもの同然だ」
「それは嘘でしょう。だってわたしたちは、一人きりでは生きていけないもの」
「ねー!」
男二人に、姫たちは笑顔で言い負かす。
これ以上は言ってもムダだと判断した城主は、偽桐雪に、姫を例の部屋へ連れていくように命じ、その場から消えた。
残された部屋では、登流が兵士と戦っている。数多くいた兵士たちも、立っている者より、倒れている者の方が多くなっていた。
当然、登流も疲れてきているはずだが、その俊敏な動きはそうは見せない。
兵士たちの虚ろはさらに増し、動きは遅くなっていく。そんな雑魚を見て、残った少年は冷酷な命令を下す。
「弱いやつはいらない。全員死ね」




