三章 朧月夜に龍 5
「いいチームワークだなぁ。見ていて参考になるわ」
「あれ? 楓牙は見学でしたか」
一人壁にもたれかかって、楓牙は見学している。かろうじて剣は抜いたままだが、やる気は感じられない。
「え? もしかしてそれで俺が二人を相手にしてるんですか?」
「今後の参考だから、口答えしない」
「いや意味分かりませんて」
「おい、この先に何があるんだ? 答えろ」
「教えてやろうか?」
はっと、声のした方に一斉に振り向く。
暗闇の方向は、自分たちが来た方向。目指していたはずの階段を背にし、康矢と登流の二人は目を見張る。惟月と楓牙は壁際に引き下がる。同時に渓は緋名を背に庇い、剣を構える。
「……城主様」
呟いたのは惟月か楓牙か。顔の知らないその相手を見た四人は、声を聞いて驚きを隠せない。
今この目の前にいる、若い男が、鈴蘭の主。
「まさか主ら二人が相手をしても捕らえられないとはな。思ったより出来るようだな」
「申し訳ございません」
壁際に控えた二人の呟きに反応して、闇の中から人物が姿を現した。
それは、背後の者に腕を取られているようだが、探していた人物の一人。淡桜の姫。玖。
「痛い! 放して!!」
「玖!!」
「姫!!」
緋名と康矢が声を出すが、玖はそちらに目を向けるだけで精一杯だ。
「武器を捨てろ。隠しているものも、全てだ」
「な、なんすか? この悪の王道な人……」
渓が小さく呟くも、今この場で軽口を返せるものはいない。目の前には、苦痛に顔を歪める大切な人がいるためだ。
まず緋名が、あっさりと細剣を横に放り投げる。次いで康矢、渓、登流が武器を捨て、それらを確認した鈴蘭の城主は、三人の男たちに声をかける。
「おとなしくしているんだな」
警戒はしているようで、自分との間に楓牙と惟月を立たせ距離をとる。そしてそれを確認するかのように、玖の腕を持った人物が、黒ずくめの男が一人、顔を見せた。それは緋名たちが見知った人物。玖とともに探していたその人。
「……雪!?」
「まさか、暗示?」
いち早く反応したのは、桐雪に戻った姿を知っている緋名。同時に渓が、心配事を口に出す。しかしそれを否定するのは、康矢だった。
「いや……」
刀が手元にないからか、康矢は数珠を握りしめる。虚ろな目、覇気を根こそぎ持っていかれたような表情で、桐雪は渓が呟いた言葉を拾う。
「ぼくは正気です」




