三章 朧月夜に龍 3
城主の言葉に了承したものの、この男はまだ殺気を出してくる。
「なに? お姫さんどこまで知ってるの?」
「なんのことですか? 何かあるんですか?」
しれっとした態度のまま、玖は言葉をつむぐ。
部下二人はいてもたってもいられないようで、玖に質問やら殺気やらを放つが、城主が両断する。
「そなた、どうあがいても我のものになってもらおうか。いろいろなところを見せてやろうぞ」
結構ですと、玖が断る前に、扉の外側からノック音が重く響いた。
「殿、お時間です」
「ちっ」
「あれ? もうそんな時間?」
二人は残念そうに言い、城主はニヤリと笑う。
「では参ろうか。もう一人の嫁を迎えに行く」
そう言って玖の手を掴もうとするが、玖はそれを嫌悪を持って避ける。
「緋名に手を出すつもり!?」
「今のうちに頭下げてよろしくって言っておけば良かったのに。後悔するよ? お姫さん?」
ネコ少年は言いながら、雪を立たせようとする。頭を掴まれて雪は若干フラフラになりながらも、自分の足で立ち上がる。
「雪、大丈夫?」
玖の言葉に、雪はしっかりとうなずく。残念ながら目隠しを外されていないので、方向はちょっとだけずれていた。しかしそれもつかの間。玖はネコ少年に腕を掴まれ、雪はもう一人の黒マントの男に引きずられ、二人は離された。
「雪!!」
「お姫さんはこっち。あいつのことなんて、もう忘れちゃえばいいよ」
「忘れないよ! どうしてそんなことを言うの?」
「…………」
ネコ少年は不思議なものを見るように、玖に目を向ける。
「……やっぱりボクじゃダメか。あとはあいつに任せよーっと」
玖は城主とネコ少年と共に、また薄暗い廊下を歩いていく。雪と、黒マントの男を残して。
◇◆◇
康矢たち四人は、一階から二階へと上がる階段を見つけていた。やけに薄暗く、本当にこの先に城主がいるのかと疑いたくなるレベルだ。
「道、あってますよね?」
「間違っているとしたら、この地図が間違っていますよ」
「この先に、玖と雪がいるの?」
「緋名、あんまり前に出るなよ」
淡桜とも水仙とも違う屋敷の造りに、四人は不安げだ。
「城主の間が上に無かったらどうする?」
「そんなことあるんですか?」
ふと、緋名が疑問を口にした。即答して聞き返したのは渓だが、登流も不思議そうな顔をしている。ただ、康矢だけは何かを考えている。
黙って階段を上がると、不安を払拭させるかのように、黒装束の男が二人、立ちはだかった。
「……この先へは行かせませんよ」
「惟月……」
「出たな。道筋はあっていたようだぞ」
「どうも初めまして。俺は楓牙。惟月の相棒です」
惟月と楓牙、この二人だった。
惟月の軽薄さとは違って、楓牙と名乗った大柄の男は、きっちりと一礼をしてくる。けれどそれすらおちょくられていると思うと、登流と康矢の殺気は格段に上がる。




