表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/86

三章 朧月夜に龍 2


 玖の目の前には、茶色いマントを羽織った男。そしてすぐ隣に、背の高い黒マントを羽織った男。この者は玖にナイフを向けている。

 玖の後ろに、強制で跪かされた雪がいる。その髪を掴んでいるのは片手で、もう片方の手は、玖に向けてヒラヒラと振られている。



「えっ……」



 驚いたのは顔だ。登流のように、仮面をつけていた。それも写真のようなネコの顔。



「覚えてねー、お姫さん。ボクのことはネコって呼んでねー。さ、前見て、前」



 茶色いマントの男が、今の玖の行動をずっと見ていたようで、うっすらと笑っている。



(われ)が鈴蘭の主だ」

「……淡桜(あわざくら)(ひさ)です」

「ふむ。なるほど。確かに美しい」

「ねー、言ったとおりでしょ」



 途中でネコの少年が合いの手を入れてくる。しかし玖が思ったのは別のことだ。

 自らを鈴蘭の主と言ったこの男、明らかに若い。



(……父さまより、だいぶ下………私たちよりちょっと上なんじゃない?)



 玖を見る目が細くなる。今、玖が何を思っていたのかを見透かすように、男は口を開く。



「そなた、おとなしく我が妻となれ」

「いやです」



 どんな状況であろうと、相手を屈服させる者の嫁になどなりたくないと、玖は正直に断る。しかも即答。



「くくく。はっきり申す娘だな。気に入ったぞ」

「雪を放して! みんなのところに帰してください!」

「お姫さん、ワガママだなぁ」

「そなたの望みは叶わない。そなたを質として、国をもらおう」

「あげません。淡桜も、水仙も、私たちの国です。あなたに、みんなを幸せにできるなんて思えない」



 玖は現在、政には関与していない。せいぜい康矢が知っていて、分かりやすく説明してもらう程度だ。それでも玖も玖なりに、どうすればみんなが笑顔で暮らしていけるかを考えている。



「あれー? ボクたちが幸せじゃないって決めつけているように聞こえるよ?」

「民の暮らしぶりは、淡桜にも聞こえています。みんなが苦しんでいるって」

「それは一部の貧しい人たちと能無しでしょ? ボクは幸せだよ? 鈴蘭で暮らせて良かったって思ってるよ?」



 玖は顔だけをネコ少年の方へ向けて話す。ネコ少年も、顔をあげて玖に笑顔を向けると、少年の下から、か細い声が聞こえた。



「……それも、一部の声でしょう? 玖姫、惑わされずに」

「うっさいなぁ! キミは黙ってなよ」



 ──ガツッ!!! っと、ネコ少年は雪の髪を掴み、床に叩きつける。


「雪!!」

「我には我の考えがある」

「お隣さんとも仲良く出来なくて、こんな……ひどいやり方で、統一なんて出来ません」



 玖はまっすぐ前を向いて話す。



「考え方の違いだね。仲良くする必要なんてないじゃないか。こうして、言うことを聞かせればいいんだしね」



 ネコ少年の手には、雪の髪が握られているが、玖はそれを見ない。城主の目を見ながら、はっきりと言う。



「怯えたまま暮らしては、笑顔になれない。だから、逃げ出してくる人がいるんじゃない」



 玖の言葉に、男四人はそれぞれピクリと動く。なかでも、玖にナイフを向けている隣の男は、玖でも分かるような殺気を放ってくる。



「待て。手を出すな」

「…………はい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ