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三章 朧月夜に龍 1


 突然の爆発で皆とはぐれた玖と雪は、どうにかもとの場所へ戻ろうと回り道を繰り返していた。しかし、土地勘がない上に、明かりもなく薄暗い。手探りで進んで、ちょっと戻ってを繰り返していた。



「せめて明かりがあればよかったのにね」

「まったくです。玖姫、寒くないですか?」

「うん。大丈夫」


「……明かりがほしいの?」

「「……っ!!?」」



 ふと、自分達以外の声が届いた。聞いたことのない、少年のような高い声だ。



「灯り、貸してあげるからさ、ボクのお願いも聞いてほしいな」

「うっぐ!!」



 声がしたと思えば、玖の前にいた雪が突然しゃがみこんだ。



「雪!?」

「お姫さんは、ちょっと待っててね。先にコイツを……」

「や……何してるの!? 雪……」

「あのね、ボクと一緒に来てほしいんだ。お姫さんは、騒いだら腕を切り落とすくらいならいいって言われてるの。だから、おとなしくしていてね」



 そうして玖と雪は薄暗い廊下を歩かされた。

 玖の首もとには細いナイフがあてられており、少しでも変にずれたら斬れてしまいそうだった。

 しかしそれでも雪よりはましだったのかもしれない。雪は両手を後ろに縛られ、目元は隠されていた。



「ちゃんとついてきてね。傷つかないようにするの、大変なんだから」



 玖にナイフをあてながら、顔の見えない少年が口を開く。雪の例もあるので確かではないが、おそらく男の子。玖や緋名より年下にも思える。



「早くしたいなー。キミ、もっと早く歩けない?」

「やめて、雪にこれ以上求めないで」

「お姫さん、優しいね。雪って、コイツのあだ名?」



 あくまでも、ははっと笑っているが、殺気は消えていない。この少年のツボを突いたら、雪は死ぬんだなと考えている。いや、自分が死ぬのはまだいい。玖に手を出されたら、今の自分には守りようがないと思っている。



「うちの殿様はねぇ、お姫さんにお話があるんだって。それとキミにも。でも、ボクの弟はキミを目障りだと思っているから、死んじゃうかもねー」



 てくてくと長い廊下を歩く。その間、ナイフをもつ少年はしゃべりっぱなしだ。



「水仙のお姫さんは動けそうだよね。剣は持ってたし。ボクと戦えるかなー。戦う女の人っていいよね。お姫さんは、戦わないよね? 護られる人?」

「……えぇ」

「そうなんだ。美人さんだと、護るのも奪うのも頑張れるよね。お姫さんの近くにいた数珠の人は戦うのかな? 武器が経文とかだったらやだなー。ボク負けちゃうかも。あ! 水仙の仮面の人もすごく強そうだよね、ボクと戦ってくれないかなぁ。ああいう人を追い詰めて追いつめてとどめを刺すの、楽しいんだよ! あぁ、そう言ってたら着いちゃった。はい。到着だよ」



 適当に相づちをうっていた玖だったが、途中から少年は独り言のごとく喋り倒していた。

 少年が止まったのは、何の装飾もない扉の前。うっすらとドアノブが見える。



「こっちだよ、さあどうぞ」

「遅いぞ」

「文句言うならキミがやればよかったじゃない? 場所が分からなくなるように適当に歩いてこいって言ったのはそっちでしょ?」



 扉が開いたと同時に、中から声がかかる。その声は少年より低く、大人の男のようだった。しかしその大人に負けじと、少年は文句を言う。

 しかし三人目の声がいさめた。



「よい。二人を通せ」



 明らかな命令だったため、玖はこの者が城主だとすぐにわかった。玖と雪が部屋に入ると、とびらは固い音を立てて閉じられた。そして部屋に明かりがつく。


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