二章 観覧車の音 10
「……緋名姫は戦士ですね」
「緋名! やっぱりカッコよすぎ!」
「え。玖姫、落ち着いてくださいね。そっち側いかないで下さいね」
「わたしも戦います! 玖は下がっていてね!」
「共に行きましょう!」
二人が顔を見合わせてうなずいていると、玖はとても羨ましいという表情をしている。
「いいなぁ。私も戦いたい!」
「玖姫、遊びじゃないんですよ?」
なまじヒミツを持っている分、なにもできないというのが不満なのか、玖も戦いに参加したいというが、それを止めようとしたのは、雪ではなく、緋名だった。
「登流は、わたしが嫁にいけなかったらどうしようって今から心配してるよ。身体を動かすのは好きだけど」
「城で待ってみては?」
雪は緋名の機転に便乗した。
「うちの騎士たちは、渓くんみたいに早く動けないよ。待っていたら、登流の負担だけが増えちゃう」
「……でも渓は不器用なんですよねぇ。今回も、渓だけがケガをしてそうです」
二人がそうっと玖を見れば、玖は自分の両手を見つめながらしっかりといった。
「渓も康矢も、みんながケガをしたら、私が治してあげないと。さぁ、いこう!」
「行きましょう」
そういって、雪は檻を掴んで力一杯押す。壊れるまで押し引きをするつもりだったが、徒労に終わる。
「あれ。開いてますよ、これ」
「え!? じゃ、もっと前から出られたってこと!?」
「いつから開いていたのかは……。確かに鍵は閉められていましたが」
いったいいつから、誰が開けたのかなど、考えてもわからないことだった。ただ、今はこの偶然に感謝しようと、雪は考えを改めて牢を出る。玖と緋名は視線を合わせてうなずき、気合いを入れて外に出る。
もうしっかり、戦いは始まっている。この場にいるのだから、自分にできることを最大発揮しようと、緋名は細剣を抜き構え、玖は前を見据えた。
姫たち三人が地下牢から一階へ上がると、待っていたのはたくさんの敵兵。女二人と女にしか見えない従者一人。油断しまくっている兵士は、緋名の攻撃で武器を手元から落とし、その状態で雪の一撃を受け昏倒していく。
「緋名も雪も強いね!」
「雪、どうしよう」
「ん? どうしました?」
「進む道、あってるのかな?」
一番前を歩くことなど、慣れていなかった。緋名が歩く道には、目の前に登流の背中があった。それが当然だった。なんせ自分は方向音痴だ。
しかし、今その背はない。見たことのない城の中を、緋名の先導で歩いている。友人とはいえ、隣国の姫を連れている。ひどく不安だった。
「大丈夫です。戦いがある方へ行けば、康矢殿や登流殿がいるはずです」
「でも、わたし道がわからない」
「大丈夫だよ、緋名。知らない場所だし、誰が先頭に立っても同じでしょう?」
「正直に申し上げますと、前からより後ろからの方が敵が多いので、この列が有り難いのです」
玖も雪も勇気づけるためにいっている気もするが、ちょっと辛辣が入っている気がする。けれど心遣いを忘れないところが嬉しかった。




