二章 観覧車の音 9
「そうですね。集中力と体力はかなり身に付くのではないかと」
「雪が戦うところ、ちゃんと見てないから見てみたい!」
「えぇ、プレッシャーです……」
「雪はねぇ、すっごくかっこいいよ!」
「玖姫! ハードル上げないで下さい!」
玖は格好いいとばかりいっているが、雪は少々困っている。緋名はどちらの言い分も分かるから、なにも言わない。
登流も昔よく、雪のような言い方をしていた。今はもう面もつけているし、つっけんどんな言い方をしているが。
「身体も丈夫になりますよね」
「そうですね。風邪を引きにくいですし、ケガも思うより治りが早いですね」
緋名と雪は体力がつくからそうなる、といいたかったが、玖からはまったく別の言葉が出てきた。
「ケガしたら、私の出番だよ」
「ダメです」
「えー?」
玖の言葉をきっちり聞いたうえで、雪は一言で断る。玖は不服そうだが、いつものやり取りにも見えた。
「許可がないのでダメです」
「雪が出してくれればいい」
「怒られるのは玖姫だけじゃないんですよ!? こっちも怖いんですから!」
以前怒られたことがあるのか、雪は若干震えている。
「玖のヒミツかぁ、なんだろう」
緋名はそのヒミツを知らないので、気楽にいう。すると雪が緋名の目の前に顔をずいっと近づけてきた。
「本当は、ヒミツがあるということも、ヒミツなんです!」
「私はヒミツにしなくてもいいと思うの! なんでヒミツなんだろ」
「ダメ! 絶対ダメ! 怖いからダメ!!」
「あとで見せるね、緋名♪」
「ちょ! ダメですってば!」
緋名にはヒミツだといい、玖にはダメという雪は、もう頭を抱え始めた。何を “見せて” くれるのかは分からないが、緋名は興味を捨てることはできなかった。
「……見たい。でも雪が気の毒」
もう一押ししたら、雪はダメでも玖がやる気になってくれるかな、と緋名が邪なことを考え出したとき、一度地下牢が揺れた。
「「!!」」
「なに、いまの……」
そのあとすぐに、バタバタと人が走る音や、怒鳴り声が聞こえてきた。玖には不安だったが、雪と緋名はすぐにぴんときた。
「来たようですね」
「では、こちらも黙っていないで、動けるだけ動きましょうか。玖姫、緋名姫」
いうやいなや、雪は着ていた着物を脱ぎ捨てた。ひらひらしていた着物の下に、濃い赤紫色の装束を着ていた。着物ひとつとっても、雰囲気がガラリと変わっている。なんとなく、声も違う気がして、まるで別人のようだ。近くで見ていた緋名は、自分で見たものが信じられなくなって、思わず声をかけた。
「雪……ですよね?」
「はい。これが戦闘用です。でもいつもどおりの私ですよ」
「カッコいいよね! 私、一目惚れして、側についてもらったんだ」
「玖姫あっさり見抜きましたよね」
玖は事も無げにいう。初めて見る男性だが、その瞳は変わらずに優しい。
「わたしも、負けてはいられませんね」
緋名はそういって、短剣を取り出す。腰のうしろに水平に挿し、長い髪をまとめる。あまり自分でまとめないのか、耳の横からちょっとこぼれている。




