二章 観覧車の音 8
この、登流が放った一言で、惟月のニヤリは止まった。
「俺たちの顔見たのは、さぞ楽しかったんだろうな」
「……あなた、意外といい人なんですね」
「はぁ?」
「羨ましいです」
剣を構えながらも、ちょっと寂しそうに登流の足元を見つめていった。
「恵まれてねーんだろうが。まず主がバカだろ、鈴蘭は」
「あぁいえ。俺の主はバカで可愛いですよ」
惟月が顔を上げて言いきると、登流は惟月から大きく離れた。そしてお面越しにボソッと呟く。
「…………キモ……」
声は届かなくても、行動ですべて分かるというように、惟月は剣を地面に刺した。
「……予想通りの反応ありがとうございます。理解してもらおうなんて、思ってませんけどね」
それだけ言ってから、また構え直す。姿勢を低く保ったまま、開けた距離を詰める。そして登流が横に引くと、惟月はそれを刀で止め、剣で登流の右腕を斬るように振り下ろす。それをまた避け、止め、斬る。
攻防が入り乱れ、かすり傷しか増えていかない。時間だけがどんどん過ぎていく。
お互いになんとか致命傷を負わせようとしているが、間合いを詰められず、苦戦を強いられている。
「ちょっと休憩しません?」
「首を差し出せば終わるぞ」
やる気がないのか、惟月は少々飽きている。が、登流は相変わらずなので、構えは解かずにいる。まさか自らの首を差し出せるわけでもない。
「うーん。それはできないけど、そろそろ時間なんですよね」
「……何の時間だ?」
律儀に答えているのはそもそもの性格なのか。登流は刀を構えながら刀を構えながら少しずつ近づく。
距離を詰めていることが分かっているからこそ、惟月は少しだけ早口でいう。
「邪魔が入る時間ですよ。続きはまたの機会にしましょう」
「は? 逃げられるとでも思ってんのか?」
登流はいうが、惟月は落としていた腰を上げ、完全に逃げる体勢だ。それに登流が気づいたが、遅かった。
ヒュッという音がしたと思ったら、ばちん!! となにかがはじける音がして、目の前が真っ白になった。
◆◇◆
二の丸付近で惟月が登流の相手に飽きていたころ、城の地下牢ではトークが盛り上がっていた。
「登流も、最初はあんなんじゃなかったのよ! 初めて会ってから、姫って呼ばずに “緋名ちゃん” って呼んでくれて。それがいつの間にか姫になってて。気づいたらお面つけてて顔見れないし怖いし。詐欺ですよ」
「登流殿が……ちゃん付け……?」
「かわいい! 私たちが登流くんに会ったときにはもう姫だったよね。私のことも呼んでくれないかなぁ」
「えー? 本気でいってるの!?」
にっこり顔の玖に対し、雪と緋名はまるで幽霊を見たような、びっくりの顔をして話している。
「今じゃ昔の話を出すだけで般若だし。二人とも、この話は登流には内緒ね! わたし死んじゃう……」
「……こわいですね」
「えー? 大丈夫だよ! あ、そうだ。聞こうと思っていたんだけど、武術って、楽しいの?」
「楽しいよ? わたし個人としては、落ち着けて、集中できて、体力もつけられる。良いことだらけかな」
「へぇ、雪も?」




