二章 観覧車の音 5
「何分?」
「え」
「渓の腕なら五分くらいで行けるはずですよ?」
「え?」
「じゃあ三分で」
「一分で十人ですね」
「あ、あの……お二方?」
「行ってらっしゃい、渓」
「行ってこーい!」
「うわあぁぁ!!!」
渓の言葉などまる無視して、康矢と登流は門前に渓を送り出す。というか、放り投げる。勢いよく飛んでいった渓は、そのまま兵士と対峙する。
「敵襲!!!」
一人で走ってきた渓を見て、門の上から横から、兵士の声が響く。
槍を持った兵士たちが、一振りの刀を持った一人に、襲い掛かる。それを木陰から二人が見ていた。
「大丈夫かあいつ……」
「強いですよ。ただの門番程度なら、渓の相手にはならないでしょう」
「まぁ、そりゃそうだろうけど」
渓が戦うところは、一度見ているかいないか。他にも訓練中の騎士がいるので、はっきり覚えているかと問われると、登流は自信がない。
「騎士団隊長が怖い人でして。色々訓練していますから」
「うちの新人がそのタイプだな。いろいろ試したがるやつがいる」
「個人戦も、二人ずつや対大人数もありましたね。騎士隊長が自分よりも強い人を育てたいと。まぁ騎士のなかでは憧れているものもいるんですがね。とりあえずスパルタなので」
話をしている先で、渓は兵士をどんどん倒していく。浅手に斬ってしまうことはもちろん、相手の勢いを利用して、他の兵士を倒している。
「私と隊長は、手の内を知ってしまっているので、なかなか勝負がつかないのですが」
「……そいつと会ってみたくなった」
「そのうち紹介しますよ。この戦いが終われば、平和になるでしょうし」
「まぁ出来れば戦いたいってのが本音だな」
「隊長がやる気になるかは分かりませんよ?」
「そこは住職殿に任せる」
「終わりましたよー! もう通れますよー!」
熱中して話していると、渓が戻ってきた。さほど疲れてはおらず、登流の言うとおり、準備運動程度だったようだ。
「おや、休憩はもう終わりですか」
「まったく見てなかった」
「ひどいですよー。あ、そうだ」
興味がなさそうに言う二人に、渓は持ち出してきたものを見せた。
「……これは」
「城内の地図らしきものを持っている兵がいたので、もらってきました。使えそうですか?」
「……無いよりはましだな。いい仕事したな」
登流に褒められたので、渓は一瞬言葉が止まる。
「……」
普段どおりのことらしく、登流は言葉が返ってこないことなど気にしない。康矢は渓を見て、登流を見る。地図に目を落としている登流はそのまま、渓は康矢を見つめ返す。しかし康矢が声をかけることはなかった。
「行くぞ。おそらく姫たちはこの地下だろう」
「そうですね。庭を突っ切って向かいましょう」
「はい!」
そうして今度は登流を先頭にし、康矢は最後を走る。門をくぐり、何回か折れ、真っ直ぐ走る。途中で気付かれた兵士の攻撃を受け流して倒し、本丸を目指して走る。内門をくぐる頃には強い兵が出てくる。




