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二章 観覧車の音 2


「水仙の、城主・鳴雲なぐも様ですか?」

「雪は、会ったことありませんでしたっけ?」

「はい。直接は、まだ……」

「優しさの塊なんです。あの人。草木も傷つけられないみたいに」

「「……」」



 自分の父だからと身も蓋もなく言い放つ緋名を、玖と雪は何が言いたいのか? と続きを待つ。



「緩くてどんくさそうで、まるで戦いなどはおろか、普通の運動すらも怪しそうでしょ?」



 続きは更なるダメ出しだった。

 玖はそこまで言わなくても、と思ったが、雪は違う可能性を見出だす。



「…………まさか」

「はい。そのとおり」

「どういうとおり?」



 雪は自分の考えをあっさりと肯定されて、言葉を失う。しかし玖は雪の考えを見抜くことはできず、緋名に続きを催促した。緋名は一度しっかりと頷いてから、言葉にした。



「登流の武の師匠、父上なのです」

「え!?」

「怖い。水仙怖い」



 以前、淡桜に緋名と登流が滞在したとき、淡桜の騎士団と稽古と試合をしたことがあった。そのときに見た登流の腕前は、武術がほとんど分からない玖も興奮したほど、綺麗で強力なものだった。

 そんな登流に腕を教えた水仙の主。相当の達人だと、簡単に想像ができた。



「それにうちの屋敷はカラクリがが散りばめられてるでしょ。忘れちゃった? そんな場所で鈴蘭の手に落ちるなんて、ありえない」

「……父さまも?」

「うん。絶対にご無事。むしろ手を出した鈴蘭の者が可哀想になるくらい」

「淡桜からも、騎士団長殿が行っていますしね」

「わたしたち二つの国に、心配なんていらないよ、玖」



 緋名の話を聞いているうちに、玖は徐々に落ち着きを取り戻していく。そうだ。水仙のお屋敷は慣れないものが勝手に出歩けないほどのカラクリ屋敷。そう簡単に調べきれないし、一回二回では覚えられない。

 そして勇気づけ、話を聞いてくれた緋名と雪に向かって、玖は頭を下げた。



「緋名、雪。弱気になってごめん」

「……玖」

「…姫様」



 そうして素直に認めて、パッと頭を上げた。

 まっすぐ前を向いた玖の顔には、もう不安はない。普段の明るさに近いものがそのまま見える。



「うん! 私たちは無敵! 父さまたちも大丈夫! みんな元気で帰れる!!」

「そうだよ! 早く帰って、おじ様のお部屋の写真をじっくり見たい!」

「あー、あれは確かに気になりますね」



 笑顔で和む三人に、不安や弱気はない。今いる場所を忘れたかのように、おしゃべりモードに入った。



◆◇◆



 鈴蘭と淡桜、および水仙は近い。領地を分ける城壁を越えればすぐに辿り着ける。淡桜と水仙の間には、城壁はあるがその壁は薄く、高さもない。一定の間隔をあけて門がある。許可証や身分証が確認されれば、ほぼ自由に出入りできる。

 しかし二つの国と鈴蘭の間に、門は一つもない。その壁は淡桜と水仙が共同で作った、対鈴蘭用の壁なのだ。

 この壁を越えると、鈴蘭の領地になる。



「登流も、鈴蘭は初めてですよね?」

「当然。水仙(うち)に来た使者も、追い返したからな」

「この壁、どうやって乗り越えるんですか?」



 壁の前に、康矢と登流、渓が立ちすくむ。高くそびえ立つ壁を見上げて、渓が聞いた。


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