二章 観覧車の音 1
問答無用で連れてこられた先は、鈴蘭国の地下牢だった。
「ここに入っていろ」
「わ、暗い……」
「意外と広いんですね」
「でも汚い」
玖、緋名、雪と三人で言いたい放題好き勝手に小言をもらすと、仏頂面面の兵士に咳払いをされた。
「静かに。おとなしくしていれば、危害は加えない」
そう言われては、そうするしかないと判断し、雪は二人の姫に頷いて見せた。
「……おとなしくしていましょうね」
そうしたことにより、兵士は観念したのかと解釈をしたようで、牢から出ていった。地下牢は、三人だけになる。
向かい合って座っていると、玖はうつむき、二人と目を合わせない。同じ姫でも戦える緋名は、こういったときの度胸がついている。
「玖?」
「ううん。なんでも、ないよ」
いつもの元気はどこへいったのかと思いつつ、そんな能天気なことを考えた雪は、自分を恥じた。玖は、自分とは違うのだ。
「怖い?」
「……うん」
「大丈夫! 登流も、康矢くんもすぐに来てくれるよ」
「渓も早そうですしね」
「そう、だよね」
こういうとき、黙ってしまうとろくなことを考えないだろうと、緋名と雪はひたすら玖に話しかけ続けた。けれど玖の身体の震えまでは取ってあげられない。
「恐怖を認めてあげることも大事だと、以前登流が言ってた。玖の考え、聞かせて?」
玖の手を握り、ゆっくりと緋名が言うと、玖はやっと顔を上げて二人の顔を見つめ、口を開く。
「……怖いよ……いろんな、ことが」
「いろんなこと?」
「私たち二つの国の民、城のみんなは平気なのかな……。康矢や渓、登流くん怪我してないかな」
玖の口からこぼれてきたのは、今ここに捕まっている自分達の処遇のことではなく、別行動をとった三人、そして愛する国民だった。
しかしそこまで言うと、玖は思い切り肩を震わせ、緋名の手を離してしまった。
「……父さま!!」
「ひさ……」
「父さまは本当に武術がダメで! どうしよう! うちに刺客が来たなら水仙にもきっと!」
「落ち着いて! 玖!」
緋名が声を出して玖をなだめる。
しかし玖は自分でも止められないほどパニックに落ちてしまう。自分の腕で身体を抱き、立ち上がっておろおろしだす玖を、雪は自分も立ち上がって玖を抱き締めて止める。
「玖姫が信じていれば、城主様は御無事です。そうでしょう?」
「……っ!!」
信じなければ始まらない。何をするにも今までの自分たちを信じなければと、玖はずっと信じてる。
玖が流してしまった涙を、雪は自分の着物で拭う。そんな二人を見上げていた緋名は、覚悟を決めて口を開く。
「……玖、うちの父上、どう見えた?」
「え?」
急に話題を変えた緋名を、玖と雪は見おろす。虚をつかれて二人は、おずおずとその場に座った。




