表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/86

一章 砂時計の針 13


 いっきに弱味を握られ、とりあえず話を続けて情報を把握しようと、康矢が一歩前に出た。惟月は動かなかった。



「鈴蘭ですか。何が目的ですか?」

「我が主の目的は、あなた方も知っているはずですよね?」

「鈴蘭の野望は叶いません。姫たちを返してください」

「康矢。そいつの首と交換だ」



 一歩下がったところにいる登流が物騒なことをいい出した。康矢がどういった表情をしているのかは、登流の位置から見ることは出来ないが、彼がククッと笑ったことは分かった。



「全戦力で鈴蘭まで来て下さい。粉々にします」



 三者三様の表情を見ながら、彼は宣戦布告をする。



「………」

「くっ……」



 渓が息をのみ、康矢がぐっと拳を握ると、登流は般若のまま仕返す。



「いい度胸だ。すり潰してやる」



 三人のなかで登流の言葉を受け取った惟月は、もう一歩後ろに下がってから、じゃ! と右手をあげた。



「俺は先に行ってます。お待ちしてますよ」

「!!」



 だから逃げ出さないように、とでもいうようににっこりと笑う。



「ではまた」



 そう言い残して後ろに跳躍し、姿を消した。


 惟月が消えて一瞬あと、康矢は姫たちがいるはずの部屋へと走り出した。正規の道順ではなく、庭の木々と屋根を伝っていく。登流と渓も当然ついていき、小さな出窓越しに見えたのは、誰もいない空っぽの部屋。



 玖も緋名も、当然雪もいない。



 屋根から地面に降りて、康矢はがっくりと座り込んでしまった。そしてそれを見た般若が一言。



「あのやろう……殺してやる」

「わ! なにこの怖い人……」



 登流が般若になっていたことにまったく気付いていなかった渓は、はじめてその怖さを目の当たりにした。キレているから余計に怖い。

 自分に向けられてはいないものの、殺気をまとった般若はかなり怖い。何か失敗をしたら、やつ当たられても文句は言えないだろう。



「行くぞ今すぐ鈴蘭に」

「待って下さい」

「行かないのか?」

「行きますけどその前に、渓?」

「はい。行ってきます」



 いうやいなや、渓は城とは反対の方向へ走っていく。いつもなら康矢が勝手に説明してくれるが、今回はそれがない。登流は康矢に身体を向ける。



「うちの緋名はなんとか戦うすべを持っている。が、玖姫と雪は違うだろう? 早く……」



 話しているうちに、康矢は立ち直ったのか、立ち上がり、登流に苦笑して見せた。



「緋名姫にも暴れないように言ってたじゃないですか?」



 パカッと音が聞こえてきたのは気のせいだろうか。登流は一瞬般若を外そうとしたが、顔の前で浮き上がらせてそのままつけた。そして般若のまま言う。



「……そうだった……」

「登流、一瞬で雪の役目を忘れましたね」

「……あれは、ムリだろ」

「似合ってますもんね」

「……」



 認めていいものなのか、本人公認ということであっても、今ここで似合っているなんていっちゃっていいのか。登流は一人で悶々と考えながらキツネ面をつけ直すと、康矢がいつもの調子を取り戻して声をかけた。



「登流、落ち着きました?」

「うん。すごく」



 キツネ面からサッとおかめに戻すと、渓が帰ってきた。



「見張りや他の騎士たちは、気絶させられていたようです」

「無事なのか?」

「はい。中庭に並べられ、わざわざ上着が掛けられていたそうです」

「……手が込んでますね」

「無事だった騎士たちには指示してきました。僕たちは先に行くと伝えてあります。動けるものはあとから隊で来るようにと」

「そうですか。ありがとう。全戦力と言われたからには、手抜きなどせずにきっちり潰さなくてはいけませんね」



 にっこり笑顔でえげつないことを言い放つ康矢を横目に、登流は自身を落ち着かせた。


 ここは水仙ではない。共に戦える者が他にもいる。一人で突っ走っては、成功するものも失敗してしまうかもしれない。もっと周りを見なければいけないなと反省したとき、渓と目が合う。



「じぃ……」



 なんだか少し前にもこんな光景があったなと思考を巡らせたが、康矢と登流はすぐに考えるのをやめた。

 今は何よりも優先すべきことがあると、頭の中を切り替える。



「まずは姫たちを探しましょう」

「おう。それからあいつの首を獲る」

「水仙にいる両城主様も無事ですかね」

「渓、信じていればなんとかなりますよ」

「……師匠がいるから平気」



 そして三人は鈴蘭国へ向かって走り出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ