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一章 砂時計の針 11


 玖の名案に、康矢と雪が力強くうなずく。いまいち要領を得ていない緋名と登流を引っ張って、玄関先まで向かう。

 途中、ある程度の強い気配に気をとられながらも、攻撃してこないことを確認しつつ、城主の部屋に通じる扉へと進む。



「玖、この先がおじ様のお部屋なの?」

「あれ? 緋名、父さまのお部屋行ったことなかったっけ?」



 玖の言葉に緋名はうなずく。その後ろから、補足の声がかかる。



「我々は淡桜のお屋敷で階段を使ったことはありません。淡桜の城主・錫飛すずひ様とお会いするときは、そこの突き当たりの会議場でした」



 数えきれない程国を行き来していたため、この城の全て案内していたと思い込んでいた。会うときは常に宴会をしている間。父が通そうとしなかったことに疑問を感じつつ、今は非常事態だからと自分に言い聞かせるようにして、玖は康矢に肯定を求める。



「……」



 うん、とうなずいてくれる。康矢は理由を知っているのか聞いてみたいと思った。しかし聞くのはあとでもいい。今は自分と緋名の安全を確保することが第一だ。そしてそのために動いてくれている仲間の邪魔をしてはいけない。


 中庭に面した壁に、康矢が手を当てる。何をするつもりなのかとよく見ていると、とある部分に手を当て、そのまま壁を横にスライドさせた。



「!?」

「この隠し扉の取っ手に、正確に手を当て、少し押さないと、横に引けないのですよ」



 文字通り、目が点になっている緋名と登流に説明をする。しかし説明されたところで壁の木目の違いなど分からないし、押す加減も分からない。どのみち、緋名と登流だけで使うことなどないのだけれど、どうなっているのか、少しやってみたい。



「うちの父上の部屋みたい」

「確かに」

「ちなみに、失敗するとしばらく動かないんだよ。すごく不便」



 緋名と登流が小声で呟いたのと同じくして、玖も小言をもらした。器用に開ける康矢とは違って、玖はたまに失敗しているようだ。

 康矢から順番に階段を上がって、城主の部屋にたどり着く。



「あ……」

「わぁー!」



 今まで水仙の姫たちを、客人をここに通さない理由が、推測だが分かった。



「ちっちゃい玖だ! かわいいー!!」

「あれ? この方もしかして奥方様ですよね」

「うちの王様といい勝負なんじゃないですかね」

「ええ!? なにこれ! 私と母さまの写真ばっかり!」



 落ち着いてことを見守っているのは康矢のみで、他の四人は家族写真に夢中だ。


 玖はこんなの知らないと言わんばかりに、懐かしいと見つめている。緋名も雪も、怪しい気配を覚えているのかそっちのけで眺めている。登流は写真に興味はあるが、警戒は解いていないようで、キツネ面でちょっとそわそわしている。


 玖が生まれた頃から順番になっている写真はもちろん、夫婦で写っているもの、母娘、父娘、幼い玖と康矢もいる。たまに水仙の家族も登流も出てくる。



「康矢、この事知ってたの?」

「まぁ、一人だけかなり落ち着いていますしね。予想してた?」

「この子、もしかして康矢くん? 可愛い……」



 玖が康矢に詰め寄ると同時に、登流も一緒に聞き出そうとする。しかし緋名は写真に夢中だ。



「まぁ、その話はあとでもいいでしょう。登流、行きましょうか」

「……うん、行くか」



 康矢は逃げるようにして、しかし顔には出さずに登流を促し、出入り口まで戻る。


 玖、緋名、雪は三人で入り口に顔を向け、それぞれ一言ずつ放つ。



「二人とも、気を付けてね!」

「傷付けて帰ってこないでよ」

「武運を」



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