一章 砂時計の針 10
屋敷に入る直前、玖以外のものたちが気配を感じとり足を止めた。ただ存在を示す気配だけでなく、明確な殺意が込められている。ここにいる者へあてた殺気と連携するように、ちらほらと他にも感じられる。
「え?」
「なんですかね、今の」
真っ先に反応したのは緋名だ。皆との会話で緊張していたのか、いち早く感知した。
「一つや二つじゃないな」
「まさかさっきの……!」
続いて康矢、登流も読み取り、雪はお茶を出すときの廊下でのことを思い出し、呟いた。
「雪、何の話です?」
「先ほど、お茶をお持ちするとき、城の外で気配があった気がしたんです。ただ、それだけで何もなく、気のせいかと思ってしまって」
呟きを聞き取った康矢と登流に、問い詰められたわけではないのに、雪は勝手に白状する。
「もし次にまたそう言うことがあれば、教えてくださいね」
「同じ失敗したら意味がないぞ、側近」
「はい。そうですね」
康矢は責めることなく伝え、登流はおかめのまま、さとす。雪はしょぼくれることもなく、前を見ていた。
「なに? 結局どういうこと?」
気配を感じ取れない玖にはほぼ把握できていないが、空気は読んでいる。
「敵だと思うのですが、怪しい気配が複数あります。姫、とりあえず安全な場所に隠れていて下さい」
「緋名、お前もだ」
「雪と三人でいてください。あ、念のために、雪は暴れないように。猫かぶっていて下さい」
「……承知いたしました」
玖に事情を説明しながら、行動を再開する。雪は康矢の言葉にしぶしぶ納得した。
「……猫か?」
「ウサギの方がかわいいですよ?」
「……ウサギではないでしょう?」
「ちょ!! そこ重要ですか!?」
「雪はいつだって可愛いよ!」
康矢と雪の変な会話に、あっさりと入ってくる登流と緋名。雪が一人で慌てている。
「ん? なんです?」
「そこ! どっちも変わらないじゃないですか!!」
「まぁそうなんですけどね」
「あぁもう!」
しかし当人にとってはすでに遅いこと。姫に可愛いと連発されてしまい、へこみたかった。が。
「お前も暴れんなよ」
「むー」
「おとなしくしてろ」
水仙ではそんなやり取りは日常茶飯事なので、ツッコミすらなかった。むしろ雪同様、緋名も禁止されてしまい、不満そうな顔だ。二重でへこんでいる雪を完全無視して、康矢は考える。今この城で一番安全な場所を。
「どこがいい……どこが、」
「父さまのお部屋にいるよ」
黙っていた玖が声を抑えて康矢に応える。玖なりにこの状況を突破しようと考えているのだ。
「そうですね。適所です」
「行こう!」




