一章 砂時計の針 8
「何だかんだでこっちの都合でゴメンね?」
「大丈夫! わたしは特になにもしてなかったし」
「荷物と武器の確認してただけですので、問題はないですよ」
「登流が宿舎へ行って渓や騎士たちを鍛えてくださるなら大歓迎ですよ」
「いいね、登流! 行ってみようよ!」
「お前はおとなしくしているんだけどな」
「康矢殿と登流殿で対決しているところを見たいです」
康矢は騎士団を鍛えてもらおうと目論んでいたが、別々の意味で緋名と雪が乗り気になってしまった。とばっちりを喰らった康矢は心底嫌な顔をする。
「いえ、私は遠慮します」
「おれも康矢とはいやだ」
ゆっくり歩きながら東側へ進む。
淡桜の屋敷は、西側は水仙との国境。南は海だ。北側が鈴蘭との国境となっているが、水仙と協力して、高く大きな壁を作ってある。
東側には誰でも海が臨める椿の高台があり、北門と海の間には淡桜の民たちが住んでいる。そして屋敷と高台の間に、騎士団の訓練場と宿舎があった。緋名と登流も感嘆の声をあげる。
「水仙とほとんど同じ感じなのに、逆ってだけですごく不思議。変な感じがするわ」
「ここから見るとやっぱり広いな」
騎士団宿舎の前まで歩いてくると、渓を先頭にして淡桜の騎士たち、水仙から来た数名の騎士たちが並んでいた。これもまた、驚くのは緋名と登流だけだった。
「お疲れ様ー!」
「え!? 玖姫!?」
「うん??」
「騎士たちの整列スルーなの?」
慌てて緋名が聞くが、歩みは止められない。康矢や雪も、ご苦労さんと言いながら足は止めず、緋名と登流は付いていく形となる。
「うーん。いつものことだからねぇ」
「我々が歩くと大体整列しているので、気にならなくなりましたね」
康矢が言うと、雪もうんうんとうなずいている。
「何も言ってないのに整列しているんです。不思議ですよ」
てくてくと歩きながら椿の高台を目指す。
「なんだかみんなでピクニックしてるみたい! おやつでも持ってくれば良かったかな?」
玖がにこやかに言うと、康矢が懐をごそごそと探る。しかし出てきたものは、玖が想像していたおやつとは程遠いものだった。
「うーん。みかんしかないですね。しかも一個」
「康矢くん、みかん持ち歩いてるの?」
「……好物とか?」
「ウチの住職ってほんと不思議」
緋名や登流だけでなく雪までも不思議がる。けれど当の康矢はなんでもない、ごく当たり前の顔をしている。おそらく常日頃から、なにかしらを持ち歩いているのだろう。そんな折。
「蝶々がみちびくその先へ~。誰にも逢えない闇の中~。ワタシと一緒に進もうか~。さぁさぁ泣くのも終わりだよ~♪」
突然玖が歌い出した。聞いたことのあるようなメロディだが、歌詞は知らない。なんだか怖い内容だと誰もが思った。
「玖姫、何? その唄」
「童謡っぽいですけど、ちょっと怖いですね」
緋名と雪が同じように感想をのべる。
「あれ? 緋名も雪も知らない? 怖いんだよこの唄。山の神さまに子供が連れていかれちゃう唄なんだって。水仙では聞かない?」
玖が後ろを振り向くと、康矢とキツネ面を付けた登流も首をかしげていた。
「不気味な内容ですね。水仙では聞いたことないですね」
「と言いますか、淡桜でも聞かないですよ。玖姫はどこで?」




