一章 砂時計の針 7
「玖姫が普段通りに過ごして、我々で追いかけるというのも、面白そうですね。緋名姫と登流殿のご要望にも添っていますし」
「え? それって面白いの?」
「良いんじゃないですかね。のんびりしながらわいわい出来るのであれば、私は大賛成ですよ」
玖が不思議に思っている横から、雪が諸手を挙げて賛成した。康矢はむしろこのままそれで決まってほしいとさえ思っていそうだ。
「まぁ、まだ夕食の時間にも早いですしね。今日はゆっくりして、明日またなにか思い付けばそれにしてもよろしいのでは?」
それもそうかなと玖が納得の表情を見せて、にこりと笑う。一段落したことと見届け、康矢は立ち上がる。
「お二方と、従者の皆さんのお部屋にご案内いたしましょう。騎士の皆さんにはいつも通りで恐縮ですが宿舎に」
その言葉に登流と雪は立ち上がる。姫二人が座っていることに疑問をもったが、すぐになにか話がしたいのかと感じとり、三人は部屋を出る。廊下を挟んですぐ目の前の部屋に立つ。
「ここは雪が控えていますから、何あればすぐに入っていただいて構いません」
「ちょ! 私のプライバシーは!?」
慌てた雪を庇うように、登流は話を止める。さすがにスルーできない。というか、自分だったらイヤだ。
「いいのか?」
「大丈夫ですよ。むしろ気を張っている訓練になりますし、良い機会です。緋名姫みたいにお願いします」
「………それは、まあ」
絶望した雪を放って、康矢と登流は進む。
角の二つは従者に。その隣を緋名、さらに隣を登流が使うと説明する。
「まぁ、この辺はいつも通りですね。ただ今回は従者の方々にも部屋を設けました。これは城主様からの指示です」
通常通りなら、緋名と登流の部屋しか準備はせず、従者は広間を使ってもらっていた。その方が気兼ねしないと緋名が言ったからだ。しかし今回は何が違うのか、淡桜の城主はそれをよしとしなかった。
「何かあるということか?」
「分かりません。案外何も考えていないのかもしれませんので」
玖の部屋に残った二人の主を、見据えるようにそちらに視線を投げる。しかし欲しい答えは無い。
「雪は部屋に。何かあればまた呼びますね」
康矢にそう言われれば、雪は下がるしかない。二人に一礼をして、玖の隣の部屋に戻っていく。玖の付き人となり三年。玖に対してのプライバシーは守りつつ、何かあればすぐに動けるよう、聞き耳は立ててきた。玖もまたそれは理解していた。だが今は緋名もいる。いや、と思い直し、今はやめようとそのまま部屋に入った。
だから、雪は何も聞いていない。
「緋名、やっとだね」
「うん。やっと始まって、そして終わる」
「父さまたちは、今このときにぶち当たるって、予想していたのかな」
「分からない。でも、もう登流たちに知らないふりしなくて良いのは、楽になるかな」
「登流くん、気づいてるって分かったら、絶対探りいれてくるもんね」
「康矢くんもそうでしょう?」
「うん。怖い」
そうして向かい合って、両手を重ねる。
「どうなるかは分からないけど、みんな無事に終われますように」
「わたしたちが信じたその先に、たどり着けますように」
「絶対に大丈夫だと信じてる」
「わたしたちに女神様の加護がありますように」
三十分ほど、各々で過ごした。建物内部の説明は省いてもいいとして、今回は長く屋敷の中で過ごすため、屋敷のすぐ外を案内しようと、玖が呼び掛けたのだ。




