お迎え
商店街を抜け、駅に着く。
駅の隣に大型の書店がある。店内に入ると、若い女が、レジの前に立っていた。
「いらっしゃいませー」
無愛想に言う。格好も今時の娘といった感じだ。
店内には、義人とその女だけだった。まぁ、時間も中途半端だししょうがないだろう。
義人は、料理本コーナーに移動した。一口に料理本といっても、膨大な量があった。テレビの料理番組のシリーズ本であったり、見たこともないような料理研究家の出した本だったり、男の料理本、なんていうのもあった。
義人は、それ等を物色した。その中に、簡単!!お弁当レシピ、というのがあった。
それを見た義人は、美智子にお弁当を作ってやろうと思った。中を見てみて、うん、これは買いだな、と思った。
次にどれを買うか迷ったが、どれも難しいというか、気取ったものばかりだった。
迷った挙句、男の料理本を手に取った。
中を除いてみると、トンカツだったり、味噌汁だったり、初歩的なメニューばかりで、初心者にはちょうどいいだろう。
そして義人は、簡単!!お弁当レシピ、と、男の料理本を買い求めた。
「ありがとうございましたー」
店員は無愛想に言った。義人が店内から出た後、鼻で笑っていた気がした。
家に帰り、昼までテレビを見た。
昼になり、腹が空いた。台所に移動し、朝作ったおじやを見ると、驚いたことに米が水を吸ってとんでもない量になっていた。
だが残すのも勿体ないので、気合で食べた。腹がパンパンに膨れた。
次に、干した洗濯物の様子を見るとすべて渇いていた。取り込んで、リビングに持っていく。
義人、美智子、孝明、タオルと、分けて畳んだ。靴下の畳み方がわからず、それぞれひと組をかた結びした。
気づくと、時刻は二時。次に何をしようか考えた。主婦といっても割と、やることがない。
あくびをした。朝早く起きたので眠い……。寝るか……。
義人はリビングに横になった。主婦の一日の二時間は昼寝に充てられるのだろう。
きっと美智子もつい最近まで、こうして大口を開けて昼寝をしていたのだろう。想像すると、なぜか笑ってしまった。
義人はそんなことを考えながら、睡眠の世界へと引き込まれていった。
起きると、時刻は六時だった。
義人は飛び起きる。孝明には五時に迎えに行くと言ってしまった。既に一時間過ぎている。遅刻だ。もしかしたら、今頃、泣いているかもしれない。
ヘルメット二つと、家の鍵、バイクの鍵を持って家を飛び出た。
ビッグスクーターにキーを差し込み、エンジンを吹かす。妻と兼用で購入したものだ。
フルハウスのヘルメットを被って、児童館までの短い道のりを、バイクでかっ飛ばした。
児童館につき、入口に掲示された地図を見て、学童クラブ教室が三階にあると知り、階段を一段飛ばしで駆け上がった。
教室では、孝明が、楽しそうにベーゴマをやっていた。
「すいません、おくれまして。菊池孝明の父です」
エプロンをした保母さんに、声をかける。
「ああ、孝明君の。
孝明君、お父さんが迎えに来たわよー!!」
保母さんは、そう叫んだ。孝明はその声を聞いてこちらにやってきた。
「おそくなってごめんな」
孝明に言う。
「じゃあお世話様でした」
続けて保母さんに言う。
「はい。
じゃあ孝明君、またね」
「うん。先生さようならー」
孝明は手を振った。
「じゃあ行くか」
「うん」
孝明と手をつないで、バイクを止めた児童館の駐輪場に向かった。
「あ、バイクだ」
「うん、今日はこれで帰るぞ」
そう言って孝明にヘルメットを渡す。
「やったー!!」
孝明は大げさに喜んだ。
こんなに喜ぶなら、毎日バイクで迎えに来てもいいかな、と思った。
孝明を後ろに乗せて、商店街へと向かった。