洗濯
そうこうしてる内に、時計の短針は八時を示した。
この時間は孝明と美智子が家を出る時間だ。
「じゃあ行ってくるよ」
美智子はリビングに、スーツ姿にバッグを持って向かった。
うん。うちの妻はまだまだイケる。職場ではイイ女と言われてほしい。
その後ろには、ランドセルを背負った孝明がついて行ってた。
「じゃあいってくるね」
美智子は玄関の扉を開け、手を振った。
自分もつい最近まで、このようにして会社にむかっていたのだ。
「うん、いってらっしゃい」
義人も手を振る。
孝明にも手を振ると、孝明も微笑んで手をふった。
「じゃあ孝明、五時になったら迎えに行くからな。
それまでお友達と仲良くするんだぞ」
「うん」
これを最後に、玄関の扉が閉まる。
さっきまでの賑わいが嘘のように、家の中は静まり返っている。
とりあえず着替えることにした。
一日中寝巻きでいるわけにもいかない。
義人は寝室にあるタンスから、ポロシャツとジーンズを取り出し、着替えた。
これから何をしようか。
最初は今日の料理の失敗を教訓に、料理本を買い求める予定だが、この時間ではまだ本屋はやっていないだろう。
家の中をうろうろしていると、脱衣所にたどり着いた。
洗濯機を見ると、濡れた衣服が入っていた。洗濯機の隣には、汚れたTシャツやYシャツが、かごに入っていた。
それを見て、洗濯だな、と思った。
義人は、洗濯機にある、綺麗な衣服を取り出し、かごに詰めた。
次に空になった洗濯機に、汚れた衣服を放りこんで、昨日の風呂の残り湯を入れた。次に、洗濯機を操作し、水位を決めた。機械には強い方なので、ここは難なくできたが、洗剤をどれくらい入れればいいのかわからなかった。
まあ多いに越したことはないだろう。洗剤を、付属のスプーンで山盛り三杯いれた。
他にも、柔軟剤やら漂白剤やらがあったが、不明だったので入れないでおいた。
洗濯機のスイッチを押した。洗濯機が動き始めた。
次にかごにいれた、濡れた衣服を二階にあるバルコニーまで運んだ。
これが、なかなかどうして、結構な重労働だった。
衣服は水を含んで重いし、階段を登るときには足が痛くなる。
まあ、なにはともあれ、義人は洗濯物を干し始めた。
美智子のブラやパンティーは見えないように内側に、タオルやTシャツは外側にして干した。
干し終わった後の洗濯物を見て、これは完璧だろう、声に出していった。
次は、朝食の後片付けをした。
味噌汁がかなり余ってしまった。捨てるのは勿体無いので、ご飯を入れておじやにした。
これは昼飯でいいや。
洗い物をしていると、脱衣所からメロディーが流れた。
きっと洗濯が終わったのだ。
義人は手を拭き、嬉々として脱衣所に向かった。
洗濯機の蓋をあけると、中には見るも無残な光景が広がっていた。
衣服に、大量に白いものが付いているのだ。
ティッシュでもポケットに入りっぱなしだったのかな??義人はそう思っていたが、白いものを嗅いでみると、洗剤の匂いがした。
洗剤を入れすぎたのだ。洗剤カスが、ダマになって残ってしまったのだ。
あらら。これは洗いなおしだな。
義人はまた、洗濯機に風呂の残り湯を入れた。