料理
月曜日までは今まで通り、美智子が家事をした。
義人は、長期休暇でも取ったような気分で、束の間の休みを楽しんだ。
孝明ともたくさん遊んだ。
そして月曜日、義人の主婦デビューの日、義人は美智子を起こさないように五時半ごろに布団から出た。
まずは朝食作りからだ。
白米と水を入れて、炊飯器のスイッチを入れた。これで六時半にはご飯が炊ける。
味噌汁を作ろう。それもとびきり旨いやつ。心配することはなかった。結婚する前は一人暮らししていた。料理くらい、どうということはない。
味噌汁なんて、お湯に味噌を溶いて、具材を入れるだけだ。
……いざ作ってみると、普段食べているものと全く違った。
塩っ辛いし、ジャガイモは煮崩れして、ワカメは溶けていた。
……あ、ダシを入れていなかった。
ダシを入れれば、多少は味が良くなるかもしれない。
……ダシ??ダシってどうやってとるんだっけ??
義人は、中学校でやった家庭科の授業を思い返した。
全く記憶になかった。
しょうがないと思いながら、布団にいる美智子を起こしてダシのとり方を聞いた。
「ダシの素が棚の中にある」
美智子は一言そう言って、また眠った。
なるほど、そういう物があるのか。一言礼を言って、静かに寝室の扉を閉めた。
棚を調べると、確かにダシの素と書いた袋があった。
どれくらい入れればいいのかわからなかったので、とりあえずスプーン一杯分入れて、味見をした。
うん、こんな感じだろう。
もし気に入らなければ、最悪納豆とご飯で食べればいい。
そうこうしていると、炊飯器から、なにか、メロディーが流れた。
どうやら炊きあがったようだ。
今、一応、味噌汁とご飯があるが、これだけでは寂しい。
卵でも焼くか。…うん、それがいい。目玉焼きなら、フライパンに卵を割って入れるだけだ。
フライパンに油をしいて火にかけた。
卵を割って入れた。焼けつくような音が台所に響いた。
……ん??あれ??
おかしくないか??
フライパンに接した面はどんどん焼けつくが、接していない黄身の部分が全く火が通っていない。焦げたにおいがしてきた。焦って火を止めた。
料理がこんなに難しいものだとは……。
結局目玉焼きは諦め、火の通っていない黄身の部分を取って、卵掛けご飯にすることにした。
底の深い皿に、一個一個黄身を移し替える。
気づくと時刻は七時になっていた。
孝明と美智子を起こす。
「わぁ、割と結構できてるじゃない」
「まあね」
平静を装ったが、あまりに汚点が多すぎて、冷や汗が出た。
味噌汁とご飯、卵をだした。
「うん、美味しい。
味噌汁がちょっと塩っ辛いけど」
美智子は笑いながら言った。
「そう」
義人は苦笑した。
孝明は味噌汁を一口飲んだだけで、飲むのを止め、卵掛けご飯を食べていた。
子供は正直だ。
義人はそれをみて、もう一度苦笑した。