案ずるよりも産むがやすし
「仕事??」
「うん。お父さんのお友達の紹介なんだけど、家具のデザイン。
最初は雑用ばかりだろうけど、しばらくしたら、デザインもさせてくれるんだって」
美智子は目をキラキラさせながら語った。
美智子は結婚前は、インテリアコーディネーターをしていた。が、妊娠を気に、家事に集中するということで、退社してしまった。
本人は顔には出さないが、本意ではなかったはずだ。出会ったころの美智子は仕事の話を楽しそうにしていた。
「良い話じゃないか」
ほんとにそう思った。この不景気に、女の、ましてや、現役を退いてから何年も経つ人間を雇ってくれるなんて、なんと心の広い会社だろうか。
「やっぱりそう思う??」
「あぁ。こんな時代だからこそ、余計にいい話だと思うよ。」
「孝明も小学校に通い始めて、私も時間に余裕ができ始めたし、それをお金に変えられたらいいかなって。
だめかな??」
「うーん。
小学校に通い始めたっていっても、三時には孝明も帰ってくるんじゃないか??」
「学童クラブにいれる。最大で夜七時まで預かっててくれる」
「うーん……」
義人は子供を預けるという考えには賛同しかねた。
家で愛でながら育ってほしいというのが、義人の教育理念だった。
「孝明ーちょっとこっち来てー」
美智子はリビングでテレビに夢中になってる孝明を呼んだ。
「うん」
声では返事をしているが、一向に来る気配がない。
「ポケモンは録画してるでしょー。
早く来なさい」
「はーい」
孝明は短く返事をすると、とたとたとこちらに駆け寄った。
「座りなさい」
美智子がそう言うと、孝明は、なんとも言えない面持ちで、義人の真ん前の椅子に座った。
怒られるとでも思っているのだろうか。かわいいもんだ。
「学童クラブは楽しい??」
「うん」
美智子がそう聞くと、言いながら、縦に首を振った。
「なんだ。もう学童クラブに入れてるんじゃないか」
「ううん。
今日、体験コースがあったから試しに入れてみたのよ」
「そうだったのか。
で、孝明、どうだったんだ??」
「楽しかったよ。
先生は優しいし、拓也君と、章仁君もいるし」
拓也君と章仁君とは、幼稚園の頃からの孝明の友達だ。
「そうか。
うん。わかった。じゃあテレビ見てていいぞ」
「はーい」
そう言って、椅子から飛び降り、リビングにかけだした。
「いいんじゃないか??
やってみたら」
「いいの!?」
美智子の声のトーンが上がる。
「ああ」
「やったぁ!!
あ、そうだ。あなたは何の話??」
「あぁ……実はな…」
こうして、今日あった出来事を美智子に告げた。
「うそぉ」
「ほんと。参ったよ」
「参ったわねえ」
……なんだか、予想してたより、ずっとあっけない。
路頭に迷うんじゃないかとか、心配してた自分が恥ずかしくなる。
案ずるより産むがやすし。昔の人はうまいこと言うもんだ。
人生においてより大きなパーセンテージを占めるのは、お金よりも、少し抜けている伴侶だ。