お隣さん
義人は引き続き、一階廊下、トイレ、風呂、と掃除を続けた。
中でも大変だったのは、風呂だった。端のゴムに生えたカビがなかなか取れないのだ。
テレビでコマーシャルしてるように、付けて置いておくだけでは全く取れない。結局ブラシで擦って取るしかないのだ。
完全に取ることは無理だが、表面の黒ずみが取れた。見た目では問題ないだろう。
腰を曲ながらの作業が多かったので、立ち上がる際に、ポキポキと音と共に痛みが響いた。
リビングに戻り、お茶を入れて一服することにした。
お茶受けがほしかったので、棚を漁る。羊羹があった。賞味期限が昨日だが大丈夫だろう。
袋から取り出して、包丁で四、五個に分け皿に並べた。
一つ手に取り、かじる。柔らかな水ようかんで、見た目も涼やかだ。
夢中で羊羹とお茶を完食した。
時計を見ると、十二時になろうとしていた。
昼飯を食べるはずなのだが、羊羹を食べて、タイミングを逃してしまった。
腹が減っているわけではないが、空腹ともいえない。
まあいいか。そう思い横になる。
テレビをつけて、笑っていいともを見る。
爆笑することもないが、つまらないわけでもない、暇つぶしには最適な番組だ。これを見終わる頃には腹も減っているだろう。
ピンポーン、とインターホンの鳴る音がした。
急いで玄関まで移動し、扉を開けるとお隣さんが立っていた。
「あ、どーも」
義人はそう言って頭を下げた。一体なんお用だろう??義人は少し考えるが、思い当たる節は全くなかった。
「こんにちは。昨日主婦仲間って言ったじゃない??だからちゃんとできてるか心配になっちゃって」
お隣さんは、おほほと笑いを付け足した。
「お昼はもう済んだ??」
「あ、いえ。まだです」
「じゃあ丁度良かったわ。一緒に家でお昼どうかしら??」
「え??いや、でも……」
「遠慮しなくても大丈夫よ。しがない老夫婦しかいないんだもの」
と、今度は自嘲気味に笑う。
義人は苦笑しかできなかった。
「えーっと、じゃあお邪魔しようかな??」
「ええ。
じゃあ行きましょうか??」
「はい」
義人は、お隣さんについて行った。
どんなことを話題にすればいいのか少し不安になったが、熟年主婦の料理の腕前を見れるのも楽しみだった。