プリント
「で、仕事はどうだった??」
義人は美智子に問いかける。
「もう最高よ。若い血がふつふつと燃え上がったわ。
私仕事続けてれば若返る気がする」
美智子は笑いながら言う。
確かに。冗談だとは思わなかった。現に今日の美智子はなにか、美しさがある。肌にハリがある。仕事のできる女の顔だ。
「そりゃよかった」
義人はハンバーグを頬張りながら言った。
「あなたはどうなの??」
美智子は義人に問いかける。
「なにが??」
義人は能天気に返事した。
「家事は意外に大変でしょう??」
「ああ、そういう意味か」
義人は一人、納得し続けて言った。
「思ったより大変だったよ」
義人は冷蔵庫を開き、ビールを取り出した。
「君も飲むだろ??」
「うん」
二人分のグラスを取って、美智子にビールを注ぐ。その次に自分のにも注いだ。
「僕も飲む」
孝明が椅子から降りて、グラスを取って、駆け寄ってきた。
「孝明はジュースな」
義人はそう言って、孝明のグラスにオレンジジュースを注いだ。
夕食を終えて、リビングで三人、テレビを見る。
ブラウン管の中では芸人達が馬鹿騒ぎしていた。
そろそろテレビも買い換えなきゃな。確か、2011年までに、デジタル放送対応のテレビを買わなければ。
そんなことを思っていると、孝明がすくっと立ち上がり、二階に駆け出した。
なんだなんだ、と思っている間に、孝明は紙を持ってすぐに戻ってきた。
「はい」
そう言って孝明は紙を渡した。
受け取ると、それは学校からのプリントだった。文字を目で追った。
どうやら三日後に授業参観があるらしい。
「授業参観か」
「うん。僕等は体育やるんだ」
孝明は目をキラキラさせている。なんでも楽しい年頃なんだろうか??
自分は授業参観が嫌で嫌で、プリントを親に見せずに捨てた記憶がある。
「なぁ美智子??」
「なに??」
「これって俺が行っていいのかな??」
こう聞くと、美智子は吹き出した。その後言う。
「そりゃ父親だし、良いに決まってるでしょう」
「孝明、お父さん行ってもいいか??」
「うん!!」
孝明は目を輝かせながら返事した。
幼稚園の時の授業参観には参加したことがないし、孝明の授業風景を一度も見ていない。
本格的なお父さんデビューな気がした。
しかもプリントには、弁当持参で一緒に昼食、とも書いてあった。
これは弁当デビューだ。しばらく美智子の弁当で練習して、孝明の弁当に心血を注ぐのだ。
少し笑みがこぼれる。
家事を楽しく思う自分がいた。