夕飯作り
孝明と荷物を後ろに乗せて、家までバイクを走らせる。
時刻は七時。美智子が返ってくるのが八時だから、あと一時間で夕飯を作らなければならない。
急がなければ。
家につき、孝明に手洗いうがいを促した。
その間に料理本を開いて、ハンバーグの作り方を確認した。
挽き肉こねて、炒めた玉ねぎのみじん切りを入れて、さらにこねて、焼くか。
よし、こねるのは孝明に手伝わせよう。
まずは玉ねぎのみじん切りか。
本の最初のページに、様々な切り方の図解が載っていた。それを参考に、繊維と逆方向に八割、切り込みを入れて、さらにその繊維と垂直に包丁を入れた。
なかなかどうして、細かい欠片になって、気持ちがよい。
それを更に細かく刻む。自分が料理の達人にでもなった気がした。
孝明がリビングに入ってくる。早速手伝わせよう。将来は料理のできる男にしよう。
「孝明、手洗いうがいはしたか??」
「うん」
「じゃあ手伝ってくれるか??」
「うん、いいよ」
そう言うと、孝明は腕まくりをした。
「じゃあ肉をこねてくれ、孝明隊員」
孝明に肉とボウル、ビニールの手袋を渡した。
「はい隊長」
孝明は目を輝かせた。
隊員と呼ばれたのが嬉しいのか、料理に携わるのが嬉しいのか、せっせと肉をこねていた。
さて、自分も作業に取り掛かろう。
フライパンに火を掛けて、油を敷いた。
料理本を見ると、弱火で炒める、と書いてあった。
ふむふむ、弱火ね。
義人はガスコンロの火を弱め、玉ねぎを投入した。
焦げないように、木しゃもじを動かす。
キツネ色になるまで炒め、火を止めた。
その頃には、少し腕が痛かった。
「孝明隊員、そっちはどう??」
言いながら孝明のボウルに目をやる。しっかりこねられた肉が、そこにある。
「できました、隊長」
孝明はニッコリ笑う。
「ご苦労!!じゃあこれはご褒美だ」
そう言って、義人は買い物袋から、孝明が集めている食玩を取り出した。
一個二百五十円。なかなかの高額商品だが、飴と鞭は教育の基本だ。
「やった!!隊長ありがとう!!」
「うん。
じゃあテレビ見てていいぞ」
そう言うと、孝明は食玩を持って、リビングに走った。
あんな小さな体が、ついに料理の手伝いができるようになったか。
義人は感慨深く思った。
冷ました玉ねぎを、肉に入れ、さらにこねた。
こねた肉を三等分する。
料理本のページを捲る。
手で叩きながら空気を抜く、と書いてあった。
空気を抜く??
どうやら重要な工程らしい。空気が抜けないと、焼いてるときに、ハンバーグにひびが入るらしい。
やり方はわからなかったが、見よう見まねで、空気を抜く、とやらをした。
フライパンにバターをしき、ハンバーグを焼いた。
美味しそうな音が台所に響いた。