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元Sランク冒険者、孤独は辛いので幸せを求めて旅をします  作者: ヰ米
✩二章✩‐Extreme clumsiness of lullaby‐
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巨大な戦斧《A huge battle ax》

あれから一週間、俺とアリーは孤児院の手伝いをしながらマシロの世話をしていた。

流石と言うべきか、アリーは手馴れたもので、俺が抱いても全く泣き止んではくれないマシロを一瞬で泣き止ませてしまうようなことが何度もあった。

だが、これでは俺がただの足でまといじゃないか。


「うぅ……、霜月(ユエシャ)、子供に好かれるためにはどうしたらいい。」


『そうだな……、その左目の眼帯をピエロにしてみたらどうだ?』


霜月(ユエシャ)に聞いた俺が間違っていたようだ。

こいつは実に素晴らしい相棒だが、真面目に答える時と巫山戯すぎる時の差が激しい。

時々巫山戯ているのだか真剣なのかわからなくなる。


「はぁ……、今日は雨で子供たちの面倒を見る必要もないから自分の必要なものでも買ってこようかな。」


俺は諦め、現実逃避気味に窓の外を眺めた。

全てを洗い流せそうなほど激しい雨だ。石造りの教会の屋根と、タイルに当たり子気味良い音を立てている。

とても外出日和とは言えないが、居候の身であるため我儘はいってられない。


『うむ、それがいい。その美的センスの可笑しいローブをいつまでも着ているのは些か問題だ。』


鼻で笑われた。鼻がないのに。

まあ、間違ってはいないと思う。実際ヘイドラゴンと戦った時の傷は、体は癒えても服は治らない。


「はぁ、これも嫌われる原因なのかなぁ」


まずはみだしなみを整えた方がいいかもしれない。


『そう気にするでない。仕事に一区切りつくまで、という時間は無制限の依頼なんだ。少しずつ慣れていけば問題ない。』


「そう言ってくれるとありがたいよ。」


たまにこうして励ましてくれるため、なんだか憎めないのだ。


『そういえば主よ。我を振ったのはまだ一回じゃないか、あまり怠けると腕が落ちるぞ』


「わ、忘れてた。明日の朝から日課くらいはやって置くか。いつ何があるのかわかったもんじゃない。」


そんなことを話していると、廊下の方から慌ただしい足音が聞こえてきた。


「あ、エリーくん!ちょっとお使い頼まれてくれない?」


やっと俺にもまともにこなせそうな役割に巡り会えた!


『主よ、大丈夫なのか?』


うるさい。









「むむ、地図はもらったんだが……」


俺の手の中で、四つ折した紙を開いたような折り目のつくものはアリーが持たせてくれた地図であった。雨のせいで多少濡れている。

非常に丁寧で細かく、色分けまでされているため量産できれば一儲けできるだろう。と思ってしまうほどのできだった。


『ほら見ろ。やはり大丈夫ではなかった。』


くっそ!

これじゃあアリーに地図を描くという仕事を増やしてしまっただけの木偶の坊じゃないか!


俺は不審者如く街の広場の噴水あたりをうろうろしていた。

相も変わらずアリステインは賑わっており、あちこちに屋台やパフォーマーがいる。

楽しそうな太鼓の音にあわせ派手な衣装に身を包み舞を舞う者。

細長い棒をくるくると空中で踊らせて鼻の上でキャッチし通行人に拍手を貰う者。


活気溢れるいい街である。


だが、店が多すぎる!人が多すぎる!

人で溢れかえっているため動きが制限される上に店も多く、なかなか探し出せない。


「うーん、ここら辺のはずなのになあ」


後頭部を掻きながら地図を見直す。

「鴉の剣」なる武具店は見つけられない。


「「鴉の剣」……、うーん、無いなぁ……」


ぱふんっ


右往左往しながらため息をついていると、背中に軽い衝撃を感じた。

何事だと思い、振り返ると尻もちをついた金髪の少女がそこにいた。


「いたた……」


少女は腰を撫でながら、涙目になっていた。

なんとも言えない罪悪感を感じてしまう。

服も雨で濡れてしまっただろう。


「す、すまん。大丈夫だったか」


俺は自分で上擦った声、と言えるほど緊張が顕著に表れてしまった声で謝った。

とにかく立ち上がってもらおうとと思い手を差し出す。

少女は一瞬躊躇ったもののすぐに掴まり、立ち上がった。


「い、いえ、私の方こそ不注意でした!」


少女は何やら凄く焦った様子で頭を下げる。

そこまで焦燥するとなると余程の事なのだろう。

よし、勇気を振りしぼって話題を振るのがコミュ力マスターへの第一歩となるのだ。

そうアリーが言っていたんだから間違いない。


「そんなに、焦って、ドウシタンダ?」


やばい、緊張から片言になってしまった……

こんなところで喋らなかったツケが来るなんて。


「あ、あの……、実は」


少女は俺の失態に気づくこともなく話し出した。


「私、冒険者を目指しているんです。なので十四歳の誕生日にもらったお金で杖を買おうと思い、「鴉の剣」に行こうとしていました。」


「鴉の剣」、相当有名なようだな。


「そして、暫くしてお財布が無いことに気がつきました。もしかしたらどこかで落としてしまったのではと思い来た道を戻ったのですが……」


「無かった、と……」


「はい、全財産だったのに……」


少女は相当悲しんでいるようだった。

その気持ちは良くわかる。俺も初めての依頼をクリアしてもらった報酬金をチンピラに盗られた時はもうその喜びと怒りのまじった変な感情をどこで発散したらいいのか分からなくなったもんだ。


落とした、と言っているところからチンピラでは無いのだろう。


「そうだ、子供にぶつかられたりしなかったか?」


だが聞き出して置いて何もしないで去っていくのはなんともいたたまれない。

責めて助言だけはさせてくれ。


「あ……」


「心当たりはあるようだな。」


最初、どういう意味か理解していない表情をしていたが、少女の顔がどんどんと青ざめていくのが俺からでもわかった。


「ああ、どうしよう……」


「兎に角、この街のスラム街はどこだ?事情だけでも調べよう。」


「あ、ありがとうございます!」










俺たち二人はスラム街を目指して歩いていた。

何故、このような活気溢れる平和な街にスラム街が存在しているのか。そんなものいらないんじゃないのか。答えは否だ。

裏でしか生きることの出来ない人間は多い。冤罪でも、事実でも、闇で生きる人間は確かに存在しているのだ。

光の人間に被害を与えないためにも、生活することが叶うスラム街での社会に馴染ませることも重要である。

だから、無理に騎士が破壊してまわっている街よりかはよっぽど安全なのだ。


「あの、本当にここに……」


「ああ、可能性は高いぞ。」


「そ、それなら頑張ります!」


「そういえば、服は大丈夫なのか?さっき転んだ時に……」


俺の隣を不安そうに歩く少女に話題を振る。怖ばっている心をほぐすという魂胆だ。


「風魔術使えるので大丈夫です!」


「おお、羨ましいな、俺なんてびしょびしょだ。」


傘を差しているのにも関わらず、髪の毛はシャワー浴びた後のようになっていた。


「ご、ごめんなさい、自分以外にはかけられないんです!」


「い、いや、謝らなくてもいいよ」


俺はそこでふと思い出す。この子の名前、まだ聞いていなかったな、と。


「「あの!」」


「あ、どうぞ!」


「あ、そっち先で!」


「は、はい!あの、お名前をまだ!」


どうやら彼女も同じことを聞きたかったらしい。


「俺は──」


瞬間、鋭い殺気を感じ、俺は即座に少女を抱くと、その場から飛び退いた。

そして、俺達がたっていた場所のタイルが大きくえぐられた。轟音とともに弾け飛び、破片が宙を舞い踊る。

跳ね返るタイルだったものから少女を守るため、足で細かくステップを刻みながら遠ざかった。


「ひっ!」


少女は引き攣った悲鳴を上げる。ちゃんと口元を抑えて声を出さないようにしているあたり、将来有望な冒険者になりそうだ。状況把握が早い。


「ははっ!今のを避けるか兄ちゃん」


男のものと思われる低い声でそう賞賛する。


土煙の晴れ、声の主が明らかになった。

そこにあったのは野太い声音がお似合いな大男が地面にめり込んだ戦斧(バトルアックス)を引き抜いている姿だった。


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