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元Sランク冒険者、孤独は辛いので幸せを求めて旅をします  作者: ヰ米
✩二章✩‐Extreme clumsiness of lullaby‐
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繋がり《Connection》

俺は少々不安な気持ちを抱きながら、門番の元へと向かった。

背丈以上ある槍を油断なく構える質のいい門番がいるところからして、この国はきっと安全だろう。


「止まれ」


真剣な声音で言われる。

俺は何も言わず、素直に立ち止まった。


「入国希望者か?」


「ああ」


「身分証の提示を」


来たか


「持っていない。ギルドで作ろうと思って」


「そうですか、お子さんと一緒に観光都市にこられたわけですか。」


一瞬警戒されるも、俺の腕の中でぐっすりと眠る赤子を見て、警戒心を解いた。

そのあと、犯罪歴を調べられるも特に問題なしということで無事に入国手続きを終えることが出来た。


門番がいい人でよかった。









「なんだか、懐かしいなぁ……」


久々に見る冒険者ギルドの看板を眺め、感慨にふける。

いつまでもつっ立っているわけにも行かないので、謎の緊張感を覚えつつギルドの扉を開けた。


「アリステイン冒険者ギルドへようこそ。登録や依頼の受注はこちらのカウンターでどうぞ。」


まっさきに目にしたのは愛想のいいギルド職員だった。その制服も、喋り方も、どこか昔を思い出させる。

……十代前半の頃はよく無茶したもんだ。


俺は言われた通りに右のカウンターへ向かい、受付嬢へ話しかけた。

赤子を抱いていたのが幸いしたのか、目尻を柔らかく下げ、笑顔で対応してくれた。


「登録の場合、こちらの書類に氏名をお書き下さい。ああ、偽名でも構いませんよ。あと、規約に同意の部分にチェックを……」


そういうと、無骨なカウンターテーブルの上に置かれた藁半紙のような紙を手に取り、受付嬢は魔力を込めた。

薄らと緑に輝くそれを俺の方へ差し出し、万年筆を手渡す。


万年筆を受け取ると、軽くインクを付け、名前を記入した。勿論偽名だ。


冒険者ギルド登録証書

怪我、死亡などの責任は負いかねます。✓

冒険者同士の争いは決闘をもっておさめることとします。✓

氏名 エル


「これでいいか?」


俺はその紙を受付嬢へと手渡す。


「はい。問題ありません。Fランクからのスタートになりますので、こちらから依頼をお選び下さい。」


そういうと、隅のほうにある「Fランク」と書いてある依頼ボードを手で示した。


「依頼書を剥がしてこちらまで持ってきていただければ、手続き完了ですので。あ、こちらがライセンスになります。三年に一回は更新してくださいね。」


優しく微笑むと、その受付嬢は青のライセンスを俺に手渡す。見た目以上に固いそれには、これからの夢や希望が詰まっているような気さえした。

少年の頃、冒険者を楽しむ余裕すらなかったため、憧れはあったんだろう。


「ああ、助かった。」


「いえ、仕事ですので。それと私はリースと言います。これからこちらのギルド支部を利用する際、私が担当させて頂くので、よろしくお願いします。」


どうやらリースという金髪の美女が俺の担当になってくれるみたいだ。


「エルだ。これからよろしく頼む。」


会話に慣れていない俺はぎこちない笑顔でそう答えた。


ライセンス発行と受付嬢、もといリースとの挨拶を終え、依頼ボードに貼ってある膨大な量の紙の中からある依頼を探す。

それは、今の俺に最も必要であり、ギルドでは一番不人気な依頼だ。不人気なので残っていると予想しているが……


「あったあった……」


もしなかったらどうしようという不安も無かったわけでは無いので、取り敢えず一安心だ。


孤児院の手伝い F

経験が無くても大歓迎です。

子供が好きな方、お願いします。

銀貨5枚


俺は迷うことなくその紙を剥がし、リースの元へと持っていった。









孤児院へ向かうため、リースに書いてもらった地図通りに進む。

やっぱりこの街には来たことがあるかもしれない。古そうに見える建物などは少し見覚えがある。


一見鬱蒼としていて治安が悪そうに見えるこのあたりだが、日差しが当たらないだけで特にそういった心配はないそうだ。孤児院もあるくらいだしな。


「え……?」


ギルドから十分ほど歩くと、教会らしき建物が見え、入口の方の縦看板には拙い字で「孤児院、戦争孤児や身寄りの無い人へ」

と書かれていた。


「戦争、ね……」


俺はあることを思い出すが、頭を振ってそれをかき消す。


「アリステイン……、アラステレン……、ここだったのか。」


俺が長い時間森や迷宮に潜り自らを鍛えている間に国の名前も変わったのか……

そういやあの人、ハイエルフだったか。今もここにいるのか?


壁に蔦が絡みつき、少し薄汚れてしまったが、この教会に見覚えがある。もう何年たったかわからないが、俺の師匠の友達がここで働いた。当時は


「まあ、今はそんなことよりこいつだな……」


そういって俺は未だに起きる気配の見せない赤子に視線を落とす。

……そういや、名前が決まってないな


「真っ白の髪、シロ……、マシロ……?」


マシロ、それを呟いた時、心做しか赤子の表情が緩んだ気がした。本当にきがしただけだが、妙にしっくりくるのでこれにしよう。


「さて、マシロ。お父さん、母親修行(面倒見れるように)頑張りますよ。」


名前をつけた瞬間、マシロと俺の繋がりは拾った、では済まされないものだとわかった気がした。

不思議とそれが嬉しく、少しおどけた調子で宣言してみた。


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