才能と夢《Talent and a dream》
毎日投稿頑張りますとか言っておきながら全然できてないっ。
……本当にすみません
「その強さを見込んで頼むのだよ。我が校の……」
「我が校の?」
「我が校の臨時教師として雇われる気はないのだよ?」
飾り気のない眼鏡の奥に覗く藍色の瞳に強い意志を宿してそう言う。
「臨時教師、とは具体的に……?」
聞きなれない言葉だ。
「ワタシ、シタアは実はバラスト王立学院の理事長なのだよ。だから、新人教師の勧誘に……」
彼女もといシタアの話を要約すると、ここの所バラスト王立学院の「戦闘試験」や「武術大会」「魔闘大会」の成績が著しくない。
そこで本来人手不足などの理由で評価を上げたい新人を雇う「臨時教師」という枠を使ってベテラン冒険者や元教官を雇い「本格的な戦闘」というものを生徒に教えたいらしい。
だから闇ギルドに条件にあてはまる人がいないか探しに来ていたそうだ。もちろん結果は散々だったのだが。
「今すぐ結論を出せとは言わないのだよ。未来ある生徒や磨けば光る生徒、それらの才能を無駄にはしたくないのだよ。バラスト学院に行っていたというだけで落ちこぼれという烙印を押されてしまわないかが心配なのだよ。ただワタシは我が校と、我が校の生徒の通過点の為に理事長として力を尽くしたいと思っているのだよ……」
その言葉からはシタアが本当に生徒達を愛していることが伝わった。
既に無能の烙印を押されつつあるバラスト学院を救うため闇ギルドにも手を出す行動力が彼女の思いの強さを物語っていた。
「……具体的な時間的猶予を聞かせてもらえるか?」
今は自分のことだけで精一杯な癖にそんな彼女の努力を尊いと思ってしまい、前向きとも取れる回答をする。
「四年以内に汚名は挽回したいと思っているのだよ。」
四年。
長いようで短い中途半端な時間。
先ず、俺はほかの仕事が手につかないくらいマシロの世話で手一杯だ。慣れもあるだろうが、もう少し効率よく頑張る必要も出てくる。
そして、教師になる以上人に教えることの基本を学ばなければならない。俺のやり方が生徒達に合うかどうかもわからないのに押し付けるのは違う。一人一人の性格や得手不得手を理解して臨機応変に対応する能力も重要になってくるだろう。
「俺は人に教えたことなんてない。研修期間を設けてもらうのが条件になりそうだが…」
「──ッ!本当なのだよ!?今すぐ採用試験に……いや、まずは……えっと……っ」
俺のその言葉を聞いた瞬間、彼女の顔は歓喜に溢れて周囲をくるくると回り始めた。
この人が理事長なんて堅い職業なのはどこか意外だ。
「二年ほどで教師の在り方というのを教えて欲しい。」
「二年……、十分に間に合うのだよ!明日の昼に、えーと青い鳥亭は知っているのだよ?」
「ああ、知っている」
「そうなのだよ、じゃあ、そこに来てくれはしないのだよ?」
「ああ、分かった。バラストって言うと隣の国だろ?小さい子供が居るから新しい環境に連れていくのも悪くない。」
「おお、小さい子がいるのだよ?なら、アクセト市がおすすめなのだよ。」
アクセト市、獣人やエルフ、ドワーフ等亜人と呼ばれていた者達が正式に「人」として受け入れられるようになったきっかけが朝市だったことから名づけられたらしい。
異国のお菓子や玩具など、子供が喜ぶ要素も多ければ、偶に骨董品店もあるらしい。地域の人はお宝探し気分で楽しんでいるそうだ。
「そうか。じゃあ、明日まで色々と考えておくよ」
そう言って、暫くお互いの名前など自己紹介を交わした。
ちゃんとアリーにも相談しないとな……
☆
「うーん、教師?」
アリーはイマイチピンと来ないような顔つきで自身の頬を撫でる。
「ああ、それも臨時だし。それにマシロがもう少し大きくなったら色々連れていきたい。観光都市みたいなのは都合がいいんだ。」
「そっかー、アリステインは賑わってはいるけど子供には向かないよね」
アリーは少し困ったように笑う。
やはり、子供が遊べる場所が少ないのは大変なのだろうか。
「ああ、やっぱり大変か?ここでやるのは」
「ううん。みんな優しいよ。確かに子供に慣れていなくて接し方を間違える人もいるけど、考え方自体はいい人だから子供が喜びそうな料理とかおもちゃも考えてくれてる。」
アリーは誇らしげにそう言った。
「そうか、それは安心した」
「だけど、エリーくんがここを離れるのはちょっと寂しいかな。孤児院のみんな、特にケルとリヴィアは泣いちゃうよ」
「まあ、一生会えないわけじゃないし、偶に顔を出しに来れば大丈夫だろう。あいつらの師匠を放棄するわけにもいかないし」
あの二人は本当に筋がいい。
他にも三人ほど習っていたがすぐにやめてしまった。苦しさに耐えることも鍛錬のひとつなのだ。
「ああ……、あの二人は本当に凄いよ。そこら辺の冒険者になら勝っちゃうんじゃないかな?」
「多分な。そういやアリーは最近剣を振ってないよな。」
「そうだね、好きだけど好きじゃないって言うか……」
アリーは眉間に皺を寄せて適切な表現を考える。
そして、「はっ」と思い出したように語りだした。
「私ね思ったの。確かに私には剣の才能があった。だけど、その才能に振り回されて道を決められるのが嫌だったの。」
「そうか……、才能は人それぞれだしそれと同時に夢だって十人十色、人によって違うもんな。夢と才能が一致していることは多いけど例外もある。」
アリーは少し悲しそうな顔をして口を開く。
「私は、アリエル=マルキスは、ハイエルフのみんなと同じように壊す才能じゃなくて治す才能が欲しかったの。魔術の力で自然を増やして人々を癒すその力が……」
「ハイエルフは基本環境魔術と治癒魔術が得意だもんな。」
「だけどね。私にあの複雑な魔術理論と陣に構造を理解して創造することはできなかった。こういうの、一般的には脳筋って言うのかな?何も考えずに剣を振る方が楽しかったの。魔術と違って相手の動きが見えてさえいればすぐに攻撃にうつれるから。」
「そういえば、冒険者時代には【断斬の巫女】とか言われてたな」
俺は少し揶揄うような口調で言う。
「もう!恥ずかしいからやめてよ!」
「わかったわかった、続けてくれ」
俺はひらひらと手を振って続きを促す。
「剣を振るのは楽しかったし私は抜きん出て強くなれた。だけど、その強さは私の欲しかったものじゃない。私が欲しかったのは、人を癒せる力。……おかしいよね、剣は好きなのに傷つけたり壊したりするのは嫌いって言うの」
「おかしくはないさ。戦うことは好きでも相手を殺すのは嫌だって人も沢山いるんだ。俺だってそうだ。」
「そっか、ありがとう。……なんか話したら悩んでるのがバカバカしくなっちゃった。」
アリーは笑顔をうかべる。
「その強さで人を守ることができたんだ。治癒魔術も必要ないから俺はそっちの方が凄いと思うぞ。」
「そう言う言われ方をしたら、なんかそんな気がしてきちゃうじゃん!……ねえ、エリーくんも誰かを守る為に戦おうと思ったことってある?」
アリーは途中から声のトーンを落とし、神妙な顔つきでそう聞く。
「俺は、どうかな?守るために戦う……あんまりないかもな」
少し自嘲げな笑みで返す
「ねえ、気になってたんだけどさ。どうしてエリーくんはそこまで頑張れたの?どこを目指してたの?」
ああ、この会話はまだまだ続きそうだ。
俺は、ぽつりぽつりと語った。