願いがひとつ《I wish one》
「お待たせしちゃいましたか?エルさん」
レミアが駆け足で戻ってくる。
うん、ここはあれを言うべきだ。
「いや、今来たところだよ」
レミアの反応を見るになにか間違えた気がしてならない。
「え、えと…、あの!なんか店長さんに杖をタダでもらってしまいました…!」
一瞬何かを戸惑っていたようだが、きっと気のせいだろう。
彼女は大事そうに抱える杖を俺の方に突き出して見せてくる。
「よかったな。優しい人間にはいいことがある。さ」
「じゃあ、エルさんにもいいことがありますよきっと!」
「え?」
そういうと、疑問の声に気づかぬまま俺の袖を引っ張って訓練所を後にするのだった。
……服買いそびれた
☆
「じゃあ、さっきの斧の人は悪い人じゃなかったんですね…、どうしよう」
青い鳥亭に行こうと思い、レミアに道案内を再び任せた。
俺が唐突に青い鳥亭に行こうと言った時は疑問顔だったが、説明したらすぐにわかってくれた。
理解と同時にやはり罪悪感は彼女の中に強く存在しているらしく、どうにも表情が冴えない。
「まあ、向こうもこっちも怒ってないなら大丈夫だよ。」
俺は気休めにでもなればという心境で声をかけた。それしかできないから。
「エルさんが大丈夫って言うなら大丈夫なんですね!うん……」
何故俺が大丈夫といえば大丈夫になるのかはよく分からないが、こんな曖昧な言葉で励ませたとは思っていない。
やっぱりここは美味しいものを食べて気を紛らわすしかない!
……美味しいのは多分、だけど
「お、あれか?」
「多分そうだと思いますよ。一度しか来たことがないので定かではないですが。」
青い鳥亭。
文字通り青い鳥だ。建物はひよこのような形をしており、全面に青い塗料が塗ってある。そして顔にはつぶらな双眸がついているため、とても可愛い。
「それにしても、かわいいな…」
「そうですね、鳥さんとても可愛いです」
周囲は赤い瓦屋根の建物が多く、少し浮いているがそれはそれでいい。
そして、今も尚店内への行列は続いていた。
……かなりの人気店らしい
列の最後尾に付き、順番を待つ。
その間に店員さんに配られたメニューを見て頼む料理を決めた。
俺は風魔鳥のグリル、レミアはおむらいす?とかいう異国の料理にしたらしい。
風魔鳥というのは、海辺のほうに多く生息する鳥で、この街の名物でもある。海が近いなんて気が付かなかった……
「オムライス楽しみです!昔の勇者様が伝えたらしいんですよ?」
「へぇ~、どんな料理なんだろうな」
「卵がのっている料理です!まだかな~」
レミアは心底楽しみなようで、尻尾と耳を幻視するくらいはしゃいでいる。冒険者に憧れてるものは大抵勇者にも憧れるからレミアもそうなのだろうか。
そんな調子で勇者や料理についての雑談をしていたら、いつの間にか順番が来ていた。
「青の鳥亭へようこそ~、向こうの窓際の席へご案内します~」
俺たちの案内をしたのは獣人の気さくな店員さんだった。
案内された席は窓際で、木漏れ日が降り注いでいるため当たり席だと予想できる。
座ることを促され、引かれた椅子に座った。
すると、店員さんは何故か俺たちの顔をまじまじと見つめ、次第にその表情は笑顔から驚愕に変わっていた。
何事かと思いレミアと顔を見合わせていると……
「あの、店長が探しているって人に特徴が似てるのですが心当たりありますか~」
そういうことか。
「ああ、店長の紹介でここに来た。」
「はい!多分その事だと思います」
「そうですか~、少々お待ちください~」
間延びした声が特徴的な店員さんは、次第に表情を笑顔に戻し、奥へと去っていった。
暫くすると、奥の方から先程の店員さんと斧使いの人が一緒に出てきた。
「ようこそ青い鳥亭へ、店長のガルドだ。嬢ちゃんに兄ちゃん、さっきはすまなかった……」
挨拶するなり、レミアと俺に向かって頭を下げた。
「いや、さっきも言った通り酷い怪我もお互いなかったから気にしてないぞ」
「はい!私も魔術を当ててしまったのでお互い様です!」
「そうか、ありがとう。今回お代はいらない。好きなだけ食べていくといい。」
「え!いいんですか?!ありがとうございますっ!」
「ありがたい」
感謝の言葉と謝罪の言葉をお互いに交わし、今回のことは無かったことにする。というので落ち着いた。ガルドは最初、無かったことにはできない。と言っていたがレミアの押しが思った以上に強く最終的には折れてくれた。俺的にも今後この店を気軽に使いたいので何も残らないに越したことはない。
「それじゃあ、風魔鳥のグリル一皿にオムライス一皿な!」
ガルドと店員さんは笑顔で厨房へと戻っていった。
☆
「ふぅ~、美味しかったですね!」
「そうだな、そしてお前意外と食べるんだな…」
「女の子に対して失礼です!も~」
レミアと俺は食後の談笑にひたっていた。お茶を飲みながら、お互いのことについて話す。とても楽しい時間だった。
出てきた料理は想像以上で、グリルの方はハーブの香りがとても効いており、鶏肉特有の臭みが全くなくて食べやすかった。筋張っていなく舌の上で転がしているうちに自然ととけてしまう程柔らかい。
オムライスは一口もらったが、卵のふわふわと甘さ、トマトソースの酸味が絶妙なバランスを取っており、素晴らしい風味が口全体へと広がった。
今飲んでいるお茶も美味しく、店と店員の雰囲気もいい最高の飲食店である。
俺は密かにアリーやマシロも連れてこようと思うのだった。
「さて、俺はそろそろ帰らんといけないがレミアはどうするんだ?」
「あ、私も宿をとらないといけないのでそろそろ探した方がいいかもです。」
冒険者目指すなら宿だよな。俺は金銭的な問題で相部屋ばかり泊まっていたが、その日限りの関係でもいい経験になった。あ、女性の場合そうもいかないか……。
「そうか、じゃあ最後に店長に挨拶して帰ろうか。今日はありがとう、孤児院にいつもいるから時間が空いたら是非来てくれ」
「はい!私も今日は楽しかったです!早く冒険者になって孤児院の依頼受けたいです!」
「おう、がんばれよ!何も依頼じゃなくても来てくれて構わんが」
俺とレミアはこのあと店長に挨拶をし、俺は帰る場所と間っている人の所へ、レミアは夢の階段入口へ、それぞれの向かうべき場所へと歩いていくのだった。
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